Date
2 0 0 0 - 1 0 - 2 8
No.
0 0-
不器用なヒトビト
t h e b u n g l e r
「桑原くん?」
「はいっ!」
「どうしたの?さっきから手が動いていない。」
「……いやあー。」
「早く食べないと冷めちゃうよ。」
「いやなんか、食欲がなくてさー、ははは……。」
「嘘でしょう。」
「あー……、分かります?」
「ええ、分かります。」
「そー……っすよねー……。」
「うん。だって昼間あれだけ動いて、おなか、空かないわけがないから。」
「は……。」
「……。」
「……あのなあ。」
「ん?」
「これ、なんだけどさあ。」
「うん。」
「……。」
「ああ、ごめんね。予算の関係で肉は豚ばら肉なんだ、特売品の。桑原くん、脂身嫌いだった?」
「いや、そうでなくてよ。」
「そうじゃなくて?」
「……あの。」
「ん?」
「この、へろっと煮込まれている正体不明の物体なんだけど……。」
「ああこれ。大丈夫だよ、今のところ魔界の薬草は使ってないから。」
「……。」
「?」
「……今のところ。」
「そう、今のところ。」
「そー……っすか。」
「ねえ、もしかしておいしくない?」
「いや、まずくなくはないんだけど。」
「うん。」
「その……、うまくもないんだよねー……。」
「……。」
「……なんて、な。」
「桑原くん。」
「はいーっ!」
「これは、限られた短い期間でより強い身体を作り上げるためのメニュー。今のあなたの体力、精神状態をみた上で必要となる成分を割り出した、計算された食事……というよりは薬と思ってもらったほうがいいかな。だから後々の効果を期待するんだったら、定量は必ず摂取してもらわないと……。」
「それは分かってるんだけど。」
「それにこのまま順調にいけば、あなたの体力に比例して食材の刺激は今よりも強くなるというのに、この程度で音を上げるなんて先が思いやられる。」
「……は?」
「いずれは魔界の薬草も使った荒療治になる予定だし……。」
「(強くなる前に死ぬんじゃなかろうか……。)」
「強くなりたいんでしょう?」
「それはもちよ。」
「じゃあ食べなさい。」
「だからいわんとしていることは理解できているつもりなんだけど……。」
「『食べなさい。』」
「ちゃんと食うって。」
「同じこと三度いわせたら殺す。」
「あー……。」
「五分!」
「はいいただきまーっす!」
「うん、いいこだね。」
「(この男、かわいい顔して結構強行だぞ。)」
「ん、なに?」
「蔵馬ってさ。」
「?」
「まつげ長いな。」
「後四分十二秒。」
「はい。(こえーにーちゃんだな。)」
「あ。」
「ほえ?」
「後ろ。」
「は?おおう飛影!」
「反応が鈍いぞ。」
「おおびっくりした。」
「まだ生きていたか。しぶとさはゴキブリ並みだな。」
「なんだとこら。」
「甘やかしすぎなんじゃないか、蔵馬。」
「無視すんな。」
「彼は打たれ強いんだよ。」
「ふん。いくら打たれ強くても自分から仕掛けないと勝てんぞ。」
「へっ、攻撃の威力は蔵馬の折り紙つきだぜ。」
「で、当たるのか、その攻撃とやらは?」
「なんだとお!今やったるか!?」
「止めろよふたりとも。飛影も、そんなこといいながら、本当は心配で様子をみにきたんでしょう?」
「……。」
「なんだこいつ、急に黙りやがって。」
「あれ、違うんですか?」
「いや……。」
「大丈夫ですよ彼なら。手加減をしないとはいいましたけど、死なない程度にはしてますから。」
「だ、誰が桑原の心配など!」
「そうだぞ。こんな奴に心配されるようになったらお終いだ。」
「貴様、永眠させるぞ。」
「おう望むところよ。」
「桑原くん、手と口動かす。」
「はい、ちゃんと食ってまーす。」
「おい蔵馬。実際、どうなんだ?」
「そうですね……。身体は丈夫だし、体力も霊力も人並以上。才能といえる程のものはお世辞にもあるとはいえないけど、努力次第でこれからどんどん伸びますよ、きっと。ただ、経験不足は否めない。闘い慣れできる環境ではないし。それに気配を殺せないから動きが察知しやすい。当面の課題はスピードかな。折角の攻撃もよく空振るから。」
「やっぱり当たらないんじゃないか。」
「うるせー。」
「ところで飛影、おなか空いてませんか?」
「なんだいきなり。」
「今夜あなたが来ることをみこして、夜食を多めに作っておいたんですよ。」
「……多く作りすぎたんだろう。」
「まあ、そうともいいますけど。」
「(だったらそういえ。)」
「少し『手伝って』もらえませんか?」
「俺はいい。」
「ああ、遠慮しなくていいですよ。」
「いや、遠慮などではなく、……といっている側からよそうな!」
「よかった、全部なくなりそうだ(笑)。」
「話をきけー!」
「え(怒)、なに?」
「……いや、いい。」
「(ご愁傷様。)」
「どうぞ。」
「……おい。」
「はい?」
「この既に形を成していない怪しげな物体はなんだ。」
「教えたら分かりますか?」
「いや。」
「じゃあ、なぜきくんですか?」
「……いや。」
「どう?おいしいですか?」
「……。」
「ん?」
「……ああ。」
「ほええええええええーっ!おま……、舌、おかしいんじゃねえか!?」
「(桑原くん……。)」
「(馬鹿。)」
「あ?どうかしたか?」
「貴様、本当に恐いもの知らずだな。長生きせんぞ。あ……。」
「(ひえい……。)」
金魚の水槽
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