Date
2 0 1 1 - 1 0 - 2 9
No.
0 0-
あなたとカップケーキ
' o u r ' S w e e t
「だーかーらー、おじさんのところに行きたいんだってばー。」
「うーん。さっきからいってるけどねえ、『おじさん』だけじゃあ分からないんだよ。おじさんったって、この辺にはおじさんは沢山居るからねえ……。」
「ここ『おまわりさん』なんじゃないのっ?」
「『おまわりさん』だけどねえ(正確には交番だけどねえ?)。それよりボク、おでこに何かできてるみたいだけど、大丈夫?(虐待とかじゃないよね?)」
「これはコーツージコノコーイショー!」←人間界ではそういえと教えられている
「ああそうなの。」
「んもー、外見のこというなんて失礼でしょっ。ボクにだって色々ジジョーがあるの。そーゆーこというと、『こどもの人権110番』にいいつけるんだから。」
「ああごめんねえ。で。『おじさん』って、キミの本当のオジサン?」
「ちがう。パパの友達。だからおじさん。」
「うん。で。そのヒトの名前は?」
「んーとねえ……。」
「分からない?」
「分かるんだけどー。いってもいいんだけど、いったらダメなの。」
「は?」
「本当の名前はあるんだけど、ココでは別の名前を使ってるからー……。」
「(不法就労者?)」
「えーとね。今思い出すからねっ。みー……みー…………み……みなみのしゅーぞー!」
「……で、ここに連れて来られたんだ?」
「もー、大変だったんだからー。困ったときは『おまわりさん』に行けばいいって教わってたのに。パパの嘘吐き。」
「それは惜しい教えかただね……。」
「おじさんもっ。ケチケチしないでもっと妖気出しておいてよっ。そしたら一人で探せたのに。」
「(ケチケチ……。)」
「あーあ。おじさん、コッチではもっと有名人なんだと思ってた。がっかり。」
「有名どころか。オレのことを知っているヒトしか知らないよ。」
「何それ。若手芸人なの?」
「芸人ではないけどね……。それで、今日は何用で?」
「遊びに来た。人間界って面白そうだから。」
「面白そうって……、人間界はテーマパークじゃないぞ。魔界から、それも一人で来るなんて。危険過ぎる。」
「……怒ってる?」
「心配してる。まったく……、情報が広まっていないから人間界はまだ安全だが、霊界には魔界の住人が人間界へ流れ込むのを好ましく思っていない連中が多い。テロリストだって居る。危険がどこに隠れているか分からないんだぞ?」
「ごめんなさーい……。」
「それで、パパは知っているのか?キミがココに居ること。」
「多分知ってる。『プロ野球選手になりたかったらほうれん草も食べなさい。』っていわれたから、『食べてほしかったらカレーライスに乗せないでよ。』っていい返して、ケンカになったから、メモ書いて、出てきた。」
「(プロ野球??カレーライス??)で、そのメモには何て……?」
「『ポパイじゃないもん』。」
「(それでオレのところに来ていると分かったらクイズ王だよ……。)」
「あれ、どこ行くの?」
「準備。じっとしていてもヒマだろう?折角『テーマパーク・人間界』に来たんですから、少しは実のあることをして帰って貰わないと。」
「え?ま。まさか……。」
「何?」
「エロいことだけはしないでね。」
「そういうことばを誰に教わるんだよ。。。」
「ボク、十八歳未満だよ。」
「知ってます……。」
(
薄力粉 +
ベーキングパウダー +
バター +
卵 +
砂糖 +
牛乳
) × オーブン
= ?
「これで、何するのさ?」
「さあ、何でしょう。」
「?」
「おやつをね。作ります。」
「おやつー?」←うれしい
「カップケーキはご存知ですか?」
「バカにするなよっ。」
「そうでした、これは失礼。」
「……で、カップケーキって何??」←結局知らない
「こういう感じ。」←レシピの写真をみせる
「わー、なんかおいしそー。甘いの?」
「もちろん。」
「(わーい。)」
「ではまず、手を洗いましょうか。」
「うん!」
おいしくなあれ。
「さて、最初は……。粉をふるいます。これは修羅にお願いしようかな?」
「これ、とんとんすればいいの?」
「そう。」
「(とんとん、とんとん……。)」
「できたら教えて。その間に。」
「それ何?」
「バター。これを、こうやって……。」
「ぐちょぐちょ〜。(とんとん……。)」
「滑らかになるまで、練ります。」
「とんとん終わったよ!」
「ありがとう。じゃあ次は、卵を割ってもらおうかな。やったことある?」
「うん。へたくそだけど……。」
「失敗しても大丈夫だよ。殻が入ったら、取ればいい。そっちの小さなボウルに、割ってください。」
「これ?」
「そう。」
「(こんこん、こんこん、ぐちょ。)う。」←指が入る
「♪〜。」←みないでみ守る
「(ぱかっ。やったー。こんこん、ぱかっ。)」←できた
「割れた?」
「うん!」
「じゃあ、溶いておいてください。」
「溶く?」
「その写真みたいな感じに。」
「……ボク、やっていいの?」
「お願いできますか?オレはこの通り手が離せないので。分担です。」←とウインク
「(わーい。)これ、使っていいの?」
「いいよ。」
「(がんばるっ。かちゃかちゃ……。)」
「できた?」
「はーい。」←少し素直になる
※ ※ ※
「さて次は。」
「次は?」
「材料を合わせてタネを作ります。やってみる?」
「うん。」
「じゃあ、まずは砂糖。」
「(まぜまぜ。)」
「次は溶き卵を。」
「を?」
「何度かに分けて加える。」
「一度に入れちゃダメなの?(まぜまぜ。)」
「うん。」
「ふうん。(まぜまぜ。)」
「最後は牛乳とふるった粉を、これも何度かに分けて加える。」
「うーん、面倒なんだね。。。(まぜまぜ。)」
「そう、面倒だよ。でも、おいしいモノを作るためには、手間もかけないと。」
「う〜ん。(まぜまぜ。)」
「くすくす。修羅?」
「何?(まぜまぜ。)」
「パパ、カレーライス作ってくれるだね。」
「うん。(まぜまぜ。)」
「そう。」
「うん。(まぜまぜ。)」
「パパのカレー、好き?」
「うん!」
※ ※ ※
「タネができました。ん、いい感じ。」
「えへへ。」
「あとは、カップにタネを入れて、焼くだけだ。」
「カップって、これ?」
「そう。……この大きさだと、何個くらいできるだろう??」
「どろどろ〜。」
「あー、ちょっと入れ過ぎかな。」
「えー。だって、いっぱい入れないとこの写真みたいにならないよ?」
「ふふふ。」
「何?」
「さあ。後のお楽しみです。」
※ ※ ※
「できた!」
「さて、オーブンは暖まったかな。」
「ねえねえ、これからどうするの?」
「いよいよ焼きます。180℃で、約20分。その間に、少し片づけてしまおうかな……。あ、修羅は頑張ったから、しばらく休んでいていいよ。」
「ボクも何か手伝う!」
「んー。じゃあ──みていてください、カップケーキ。」
「みてるの?」
「そう。オーブンの窓からね。」
「……みてるだけ?」
「重要な仕事ですよ?レシピの通りに作っても、必ず成功するとは限らないから、お菓子作りは最後まで気が抜けないんだ。……焦げそうになったら教えてください。」
「ふむむ〜。」←ちょっと不満
「♪〜。」←洗い物の最中
「む〜。」
「……。」
「……。」
「……。」
「……ふむ、む?──あ……──ふくらんできたよっ!──わあ、すごーい。ふくらんでる、ふくらんでる!──わあ、いい匂い、いい匂い!!」
チーン☆
「さあ、どんな具合かなー?」
「わあ!すごいねくらま!写真とおんなじ!!」
「うん、上出来。初めて作ったとは思えない出来栄えだ。パパが食べたら、きっと大喜びするよ?」
「え……。ねえ、これ、ボクが作ったの……?」
「そうだよ。」
「……ホントに?」
「そうだよ。オレも手伝ったけど、ちゃんと自分で手を動かして作ったろ?」
「……。」
「さあ!おいしいカフェオレをいれます。パパのお土産にする分は取っておいて、おやつの時間にしましょう。」
「わーい。」
※ ※ ※
「さあどうぞ。」
「これ、コーヒー?」
「そう、カフェオレ。コーヒーの牛乳割り、といったところかな。」
「ふうん。パパがいってたよ。くらまがいれたコーヒーが世界で一番うまいって。」
「へえ……。」
「いっただっきまーす。(ぱく。)」
「自分で作ったカップケーキのご感想は?」
「おいしー!ふかふかしてて、なんかたまごの味がする!すごいねー、全部別々の材料だったのにね?」
「どう?初めてのお菓子作りは、楽しかった?」
「うん、大満足!」
「それはよかった。パパの分は後で包むから、持って帰るといいよ。」
「うん。でもこのカップケーキ、持って帰る間に腐らないかな?」
「大丈夫。一緒に、時間をゆっくりにする花を入れておくからね。」
「おにぎりに梅干しを入れておくみたいな感じ?」
「ちょっと違います。。。帰りは、オレが送ってやれればいいんですけど……。修羅、本当に一人で大丈夫か?」
「だいじょーぶだよ。最近は魔界でもヒコーキが飛んでるんだよ?」
「飛行機?(きいたことないな。)」
「プテラノドンっていうの。一人乗り。」
「(それ飛行機じゃないよ!)」
「力技で捕まえて、何となく舵取りしてれば、プテちゃんとしゃべってる間におうちに着くから大丈夫。もういっこたべていい?」
「(プテちゃん。。)あ。ああ、どうぞ?」
「あーあ。くらまが一緒に暮らしてくれれば、いっつもおいしいモノ、食べられるのになー。」
「ふふ。一緒に暮らしても、いつもオレが料理するとは限らないぞ?」
「パパと分担でもさあ。そしたら、パパももう少し料理が上手くなると思う。」
「?黄泉って、そんなに料理下手だったかな……?」
「下手ではないけどー。基本的に最初から最後までテンパってるから、時々味つけを忘れる。」
「はあ。。。」
「パパ、ボクがお腹を空かせて待っているのが、厭みたい。だから、カレーでも何でも、いーっぱい作るんだ。」
「……。」
「……パパは、何でくらまと一緒に暮らしたいっていわないんだろう?」
「……そう思っていないからじゃないのかな。」
「そんなことないよっ!」
「……。」
「そんなことないモン。絶対。」
「そう?」
「もう!何でにこにこ笑ってんのっ?オトナってめんどくさいんだからっ。」
「ただいまー。」
「修羅!!(怒)」
「(びくっ!!)」
「一人で人間界に行くなんて……。パパがどれだけ心配したと思っているんだ!」
「……ごめんなさーい。」
「蔵馬のところに行っていたのか……?」
「うん。(パパは何でもオミトオシなんだ。)」
「……まったく、誰に似たのか。困った子だ。」
「パパ。」
「ん?」
「はい、コレ。」
「ん、何だ?」
「お土産。ボクと、おじさんから。」
「これは……、人間界の菓子か。」
「カップケーキっていうんだよっ。おじさんと一緒に作ったの。」
「ほう……。」
「うれしい?(そわそわ。)」
「ああ、うれしいよ。そうか、蔵馬が。」←口元が緩んでいる
「!」
☆ ☆ ☆
「ぼーぐーぼーいーっしょーじーづーぐーっだーんーだーっでーばー。みー。」←号泣
「分かった!分かってるよ!!修羅も一緒に作ったんだよね!?すごい!すごいなー、パパ感心しちゃうっ。」
☆ ☆ ☆
「ひっく。ひっく。」←泣き疲れた
「はあ。……で、コッチの包みは何だろう?」
「開けてみれば?くらまが『パパに渡して。』っていってた。」
「……ふむ。」
「あ。襟巻き(マフラー)だー。あったかそー。」
「修羅。これは、どんな色だ?」
「ええとねー。何か、オッサンっぽい色。」
「(がーん。)」
「じゃなかった、落ち葉っぽい色。(赤くて茶色い感じ。)」
「(全然意味が違うよ!)」
「くらまってセンスいいよね。パパ、似合うと思うよ?」
「そうか。うれしいな。」
「ボクにはクリスマスになったらプレゼントくれるって。楽しみだなー。」
「そうか。蔵馬には世話になりっぱなしだ。歳暮でも贈るか。いや、そんなことしても迷惑がられるだけか……。」
「ねえパパ。」
「ん?」
「くらまは妖怪なのに、何でずーっと人間界で暮らしてるの?」
「それは……。蔵馬にはきいたのか?」
「ううん。」
「……そうだな。俺も蔵馬ではないから分からない。」
「……。」
「ただ、時が来れば。……そういう『時』が来れば、魔界で暮らすこともあると思う。『時』が来れば、自然とそうなる。」
「そういう『時』?」
「戦争が終わってから、パパと修羅は、いろんなところに引っ越して、暮らしてきたよね。」
「うん。」
「だがそれは、逃げたり隠れたりしていた訳ではない。ちゃんと理由があって、二人で決めて、そうしてきたんだ。」
「うん。」
「蔵馬には、今は人間界で暮らす理由があるんだよ。その理由を、俺は推し量ることはできないが。多分、今の蔵馬にとっては、人間界も魔界も大して差がない世界なんだと思う。どちらで暮らすことも、世界を選ぶような重いことではなくて、『隣町に引っ越す』くらいの感覚で、いずれ魔界に住むこともあるのではないかな。」
「パパは、それを待ってる……?」
「……。」
「……。」
「……いや。あの男を待つことはない。その必要はない、ほら、パパには修羅がいるから──」
「ウソだあ、そういうのキレイゴトっていうんだぞっ。」
「……。」
「オトナって何でウソばっかり吐くのさっ。ホントめんどくさいんだから!!」←自分の部屋に走っていく
「あ!待ちなさい、修羅!!」
「あ。でもカップケーキ食べてね♪」←でも振り返る☆
「あ、ハイ。。。」
※ ※ ※
「きれいごと、か……。『修羅がいる』は本当のことなんだが。あの他人に懐かない子が──好きになってしまったか、アイツを。まったく。誰に似たのだろうな……。」
金魚の水槽
HOME
MENU
Copyright (C) Kingyo. All rights reserved.