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No.
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伝染るんです
I t i s i n f e c t e d
「伝染病だあ?」
突然呼び出されたと思ったら、なんかヤバそうな話じゃねえか。
「そうじゃ、最近妖怪たちの間で流行り病が出てな。まあ幸い命にかかわるもんではないから、そう深刻に考えんでもよいと思うが。」
「じゃあなにか、インフルエンザみたいなもんか。」
「ま、そんなところかな。」
なんだ、大したことないじゃん。でもよー……
「じゃあなんでオレが呼び出されてんだよ。なんもすることねえじゃねえか。……まさか人間界にいる妖怪を一匹ずつひっ捕まえて、予防接種するっていいだすんじゃないよな。」
「そんな気の遠くなることしてられるか、ぼけ。」
ぼけは余計なんだよ、このチビ。
「じゃあなんなんだよ。」
「おまえはインフルエンザみたいなもんかといったな。このウィルスもインフルエンザのように突然変異を起こして突如狂暴化する可能性があるのだ。」
インフルエンザって変身するのか?……知らなかった。
「狂暴化する前にある程度、まあ、せいぜいご近所の被害は防ぎたいところなんじゃが。妖怪にも免疫だの抗体だの、病気に対する抵抗機能があってな、今回の病に関していうと『ある時期』をのぞいた期間に魔界におった妖怪には体内に抗体が存在するのじゃ。そのために大抵の妖怪は発病から免れておる。」
「なんだよ『ある時期』って。」
「まあ聞け。つまりその時期以前に魔界におった者、その時期以降に魔界におった者はキャリア。その時期にすでに魔界にいなかった者はノンキャリアということになるのだが……」
「……それで?」
「結論からいうと、おまえの身近にノンキャリアの妖怪がいる。」
「オレの身近な妖怪?っていうと、蔵馬だろ、飛影、それに雪菜ちゃん……それぐらいだろ。こん中にいるのか?」
「そう、二人な。」
二人?……そうか、蔵馬はガタイが人間だから対象外。つまり……
「飛影と雪菜ちゃん。」
「そのとおり。」
「あっ、蔵馬、来てたのか。」
声の主はなんか試験管の束みたいのを持った蔵馬だ。
「正確にいうと、雪菜ちゃんはその後の抗体検査で陰性、つまりキャリアであることを確認。飛影のほうは居所がつかめないため確認できず、といったところですけど。」
抗体検査ってツベルクリンみたいなもんか?
「ところでなんだ、その理科の実験道具みたいの。」
「ああ、これはコエンマに頼まれてつくった例の病の特効薬ですよ。」
「おお出来たか。……あとは飛影を探し出してこいつを飲ませるだけなんだが。」
ちょっと待て。オレを呼び出したワケってこれじゃねえよな。
「おいコエンマ。まさかオレに『飛影を探して薬を飲ませて来い』なんていいだすんじゃ……」
「そうじゃ。」
ばっ、ばっ……
「ばかかてめー、そんなこと自分でやれよ。オレだってヒマじゃねえんだ。んなくだらないことで呼び出してんじゃねえよ。」
「おまえなあ、飛影がワシのいうことをきくと思うか。」
……あいつなら、霊界の命令なんかききそうにねえな。
「でも、蔵馬のいうことならきくんじゃねえか。な。」
「オレ、意外と信用されてないから、力ずくじゃないと無理でしょうね。」
これは絶対ウソだ。
「雪菜ちゃんは、いくら飛影でも最愛の妹のいうことならきくだろ。」
「おお、そうじゃな。っといいたいところだが、それは最後の手段だろうな。」
なんか納得いかねえんだよな。ま、しかたねえか。
「わーったよ。やりゃーいいんだろ、やりゃー。」
「やってくれるか。さすが幽助じゃ。頼りにしてるぞ。」
……うるせー、チビ。
なんか納得できねえまま、とりあえず門を出た。
飛影捜索に蔵馬も同行することになった。しかし、なんか気になるんだよな。なにか、なにか……
「そうだよ。なんで飛影がオレのいうことをきくって思うんだ?」
蔵馬もさっき、「あなたのいうことならきくでしょう」みたいなことをいっていたし。
「そうですね……、簡単にいうとあなたは飛影のフェイバリッドだからでしょうか。」
なんだ?ふぇいば……
「つまり、彼はあなたのことを全面的に信頼しているし、彼にしては珍しく仲間として、さらにいい意味でのライバルとして認識している。気に入られてるんですよ。」
「はあ?」
なんだそりゃ。
「しかしよお、どおやって探すんだよ、病人を。」
「……案外早く見つかるかもしれないな。」
「?……!」
突然、蔵馬のローズウィップが目の前の柳の木の茂みに伸びた。そいつはなにかを絡めて、無理やり引っ張り出したものが空に舞った。
「ひ、飛影!」
飛影の足は完全に捕らえられている。蔵馬は絶妙な力加減で飛影を地面にたたきつけた。
「やあ、こんなところでお会いできるなんて。久しぶりですね、飛影。」
そりゃないだろ、いきなり。でも、こいつすげえぜ。オレは改めて感心した。動作を転じるそぶりなんてまったくなかった。いってみりゃ、「それ取って。」「オッケー」って感じで、感情の起伏も妖力の放出もまるで気づかなかった。でも、やり方はひでーな。……悪魔だ。
「貴様、なにを空々しいセリフを……」
飛影はかなり痛そうだ。20ポイントのダメージを受けた。(RPG調)
「おまえ、なんでこんなところにいるんだ。」
「話をきいて様子をうがかっていたのでしょう。あなたのことですから、雪菜ちゃんにストーキングしているときに情報が耳に入って、霊界へ向かった。理由は雪菜ちゃんの当面の安否について、コエンマからききだすこと。そのときたまたま指令を告げるために呼び出された幽助とコエンマの会話をきいて、離れたところから気配をかくして尾行してきた。……そんなところでしょうか、飛影。」
……ストーキングっておい。
「なあんだ、そんなら話は早いや。飛影、これ飲め。」
立ち上がった飛影が素直にこういった。
「ふん、断る。」
……。ぬわんだとーっ!
「おいこら!」
なんかはなしがちがわねーか。オレは蔵馬の襟首をつかんだ。
「飛影はオレのいうことならきくんじゃねーのか。うそつき!」
「まあまあ、おさえて。」
「なにをいいあってるんだ、くだらん。」
おい、身をひるがえすな。てめーが原因なんだろ。
「待てこら。病気になるかもしれねーんだぞ。」
「どうなろうと知ったことか。俺には関係ない。」
「雪菜ちゃんさえ無事なら?」
そうか、雪菜ちゃんに免疫があれば、飛影が少々近づこうが雪菜ちゃんに発病の危険はない。ってそういう問題じゃねー!
「いいから飲みなさい!」
「貴様はオレの母親か!」
「おお、母親でもなんでもなってやる。こんな面倒なことはさっさと済ませてーんだよ。さあ飲め。」
「ふん。」
こいつ、カチンと来んなー。
「……こうなったら実力行使だ。ぜってー飲ませる。」
オレは飛影に右ストレートを繰り出した。よっしゃーヒット!っと思ったら、ひらりとよけられた上に足払いをくらって前のめりに倒れた。……10ポイントのダメージを受けた、なんて冗談いってる場合じゃねえ。
「直線にしか動けんのか、ばかが。」
ぶっころす。
「キレたぜ。こーなったらてめえを気絶させてでも飲ませてやる。」
「ばかか貴様。気絶してどうやって飲ませる。」
「ありますよ、方法。」
蔵馬が口をはさんできた。
「昔から、気を失っている人物に薬を飲ませるのには、『口うつし』が一般的な方法として行われていますよね。」
「『口うつし』?」
なんか、やな予感がする。
「つまり、その薬を幽助が口に含んで、飛影の口に直接流し込む。こぼれるもふき出すこともないから、適量を確実に飲ませることができる。」
……やっぱり……っておい。
「なんでオレなんだよ!おめーのつくった薬だろ、おめーがやれよ!」
「オレ、飛影の保護者じゃないですよ。」
「オレだって……」
「母親でもなんでもなるんでしょう。それにこの指令を受けたのは霊界探偵のあなたですよ。」
「そんな気色わるいことできるかー!」
「おい。」
「仲間を助けるためでしょう。」
「助けるって、ぴんぴんしてんじゃんかよ!」
「おい。」
「……発病したら、飛影が死ぬかもしれないんですよ。」
「なに深刻にいってんだよ!命にはかかわんねーんだろ!」
「ああ、覚えてましたか。」
「おい!」
「はい?」
「なんだよ!」
口出しすんじゃねーよ!
「それをよこせ。」
「あん?」
「はいどうぞ。」
いつのまにか蔵馬がオレの持っていた薬を持って、飛影に渡していた。そして、なんだよそれ、あれだけいやがっていた飛影がおとなしく薬を飲んでいるぞ。
「そうそう、はじめからおとなしく飲んでくれればいいんですよ。」
蔵馬はうれしそうだ。
飛影は不服そうだ。うん、そりゃそうだ。
なんかうまいこと使われたって感じだな。……まあいっか、終わったんだし。
それからオレは、すぐにコエンマに指令完了の報告をしにいった。コエンマはあんまり早い展開で、最初は信用しなかったが、遅れて蔵馬が飛影をつれてコエンマの執務室に入ってきたので納得がいったようだ。
「しっかしよお。」
部屋を出たオレは、さっきから気になっていたことを蔵馬にいった。
「思ってたんだけどよお、本当はおめーが一番飛影のこと、心配してたんじゃねえか。」
「え?」
「だってよお、蔵馬は霊界に使われているわけじゃねえだろ?なのに霊界の命令に従ってわざわざ薬なんてつくってやる必要はねえだろ。」
「ああ、そのことですか。もちろん無償だったらやらないでしょうね。」
なにっ?
「でも霊界側でそれなりの報酬を用意していれば別です。まあ、それも中身次第ですけど……」
オレは蔵馬のことばを最後まできいてはいなかった。引き返してコエンマの部屋のドアを思いっきり開ける。
「おいこらー、コエンマ!ほーしゅーよこせー!」
金魚の水槽
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