Date
2 0 0 1 - 1 2 - 1 6
No.
0 0-
オウン・ワールド
o w n - w o r l d
【 守るべきヒト 】
「秀一?」
「んー、何?」
「あのね、今年のクリスマスのことなんだけど……。」
「ああ別に構わないよ。とうさんとふたりでゆっくりデートでもしておいでよ。」
「ううん、そうじゃないの。」
「?」
「今年はね、クリスマス。家族四人でお祝いできないかしら?」
「え……?」
「ああもちろん、あなたのほうに先約があるなら、無理にとはいわないわ。」
「いや、ないけど。……どうしたの突然?」
「……。」
「……。」
「……やっぱりおかしいかな、こういうの?」
「……。」
「……。」
「おかしくないよ。」
「……。」
「でもちょっとききたいじゃない。『クリスマスを家族で』と考えるあなたの理由。」
「別に大したことでもないのよ。ただね……。」
「ただ?」
「家族が増えたでしょう?」
「それから大分経つけど?」
「うん……。」
「オレは、こういういいかたをするのはよくないかもしれないけど、上手くやっているつもりだよ。秀一はかわいいし、とうさんは一生懸命家族のために頑張ってくれるヒトだし。」
「そうね。だけど今回の理由とは、ちょっと違うの。」
「……。」
「……あなたが、もうオトナの歳だから。」
「……。」
「あなたにはあなたの人生が既にあるでしょう?多分これからは、節目々々を一緒お祝いしたい相手が現れて、そのヒトが家族よりも友達よりも大切な存在になるはず……。」
「……。」
「……下の秀一はまだ若いから、もしかしたらとうさんと三人でならクリスマスができるかもしれないけど、……これが最後だと思うの。家族だけでクリスマスを過ごせる、最後……。」
「……。」
「やっぱりおかしいわね……。」
「いいよ。」
「え……。」
「いいよ、クリスマス。楽しみましょう。オレ、何しようか?……ケーキでも作ろうかな。」
「あ、いいのよそんな。私がやるから。」
「え。かあさんが作るの……???」
「何よその不信そうな顔は?」
「だって出来るの?お菓子作っているところなんて久しくみてないんだけど。」
「あら、『昔取った杵柄』っていうでしょう?これでもあなたが小さい頃には、おやつは手作りで食べさせていたのよ。」
「そうそう、泡だらけのプリンとか、ひっくり返したら真っ黒なホットケーキとか。」
「……もう、口ばっかり達者なんだから。誰に似たのかしら?」
こればかりは、生まれつき。
「こうなったら、あなたに莫迦にされないように頑張らなくちゃ。」
「かあさん……。」
「……え?」
「オレ、かあさんの作ったものでまずいと思ったものはなかったよ。」
「あらそう、な、の……?」
「あなたはオレにとってかけがえのない存在だから。」
「……。」
「小さい頃はね、オレが側にいなければ、このヒトはどんなにか幸せに暮らせるのだろうって、ずっと思っていた。でも、自分の力だけでは生きていけない身体だったから、あなたを利用するしかなくて……。」
「ちょっと変なこといわないでよ。あなたは私の子供でしょう?『利用する』だなんて……、当たり前じゃない。」
「……そうだね。御免。」
「そうよ……。」
「ただ、聖誕祭の前だし、いっておきたかったんだ。」
「……?」
「あなたの側にいられた時間は、『オレの人生』の中で初めて訪れた、最も平和で充実した時間だった。」
「……。」
「だから、オレはあなたの子供に生まれたことを、心から感謝している。」
「……。」
「……。」
「……。」
「……どうしたの?何かいってよ。」
「……ありがとう……。」
「あれ……?ちょっと泣かないでよ……!」
「だって、うれしいから……。」
「だからって泣くことないだろう。今とうさんが帰ってきたらオレ、とうさんに殺されるよ……。」
「……ありがとう、秀一。」
「もう……。」
「ありがとう……。」
「泣くなよ。……泣くなって……。」
あなたの弱さを知る度に、オレはあなたから離れられなくなる。
【 認めてくれるヒト 】
「……という事情なので、二十四日はここに来るのを避けてもらえませんか?」
「なぜそんなことをいうんだ?」
「ああ別にあなたを避けたり、冷たくあしらっているつもりじゃなくて……。」
「?……莫迦。そういう意味じゃない。なぜ、わざわざ俺にそんなことを告げるのか。
……それじゃあまるで、俺が毎日おまえのところの押しかけては迷惑をかけているみたいじゃないか。」
「んー……。確かにあなたは、毎日来るどころか月に一度か二度会えるくらいで満足しなければならないヒトで、しかもここにいるときのあなたは、迷惑をかけるどころかいるのかいないのかも分からない、時にはいつ来たのかも分からないくらいで、じー……っと、貝にでもなってしまったんじゃないかって心配させられる程大人しくしているけど……。」
「?」
「……いつ来るか分からないということは、毎日来られることよりもプレッシャーがかかるものなんです。」
「……悪かったな。もう来ない。」
「……。」
「……。」
「そう……?」
「な、何だその余裕の笑みは。」
「だってその台詞、今年だけで五回はきいた。」
「……。」
「今ので六回目だから、あなたは二ヶ月に一回はここに『来なくなる』ことになりますね。」
「……。」
「だから、あなたの『もう来ない。』は効かない。」
「……。」
「……飛影?」
「どうせ俺は、……意志が弱い。」
「何へこんでるんですか……?」
「ふん。」
「とりあえずオレの状況は伝えておきました。あとはあなたのご自由に。……そのカップ、もう空でしょう?貸して、別のもの持って来るから。」
「……二十三は?」
「?……はい?」
「だから、二十三日ならどうなんだ?」
「え……?」
「……。」
「い。……いるけど。」
「じゃあ来ても構わんな。」
「でも飛影仕事は?」
「公休日に休んで悪いか。」
「……。」
「何だ、その解せない顔は?」
「……いえ、別に。ただ、……どうしてきくのかなって。」
「いつ来るか分からないとプレッシャーがかかるんだろう?」
「……。」
「だから、いってみただけだ。」
「……。」
「……?」
「……うん……。」
「?……何だよ……!」
「いや、いいんですけどね。」
「?」
「……普段滅多に来ることがないヒトに突然いつ来たいとかいわれるのは、その当日が来るまでずー……っとプレッシャーがかかりますね。」
「貴様……。ならどっちがいいんだっ!」
「くすくす。御免、冗談だって。」
「莫迦。」
「怒らないで。ちょっとうれしかったから、ふざけてみました。」
「ふん、まあいいさ。」
「え……、もう帰ります……?」
「ああ。」
「本当に、御免……。」
「?……違う。これから夜勤なんだ。」
「ああ……。あなたは、案外真面目ですよね。」
「そうだな。おまえのように罪悪感も感じずにサボれれば随分と楽だろう。」
「……。」
「刺さったか?」
「うん、久々に……。じゃあ、この次は二十三日だね。」
「ああ。」
「待ってます。」
「ああ。この時期になると、おまえは忙しいらしいからな。」
「……え?」
この世で一番幸せなことは、自分の存在を肯定してくれるヒトがいることである。
「……『予約』を入れておかんと会うことが出来なくなる。」
その台詞が、生きることの意味を教える。
【 安らげるヒト 】
RRRRR……。
「はい、桑ば……。」
「ハァイハニー、相変わらず数学が苦手なの?」
「何だ蔵馬か……。」
「『何だ』って……。もう少し驚こうよ。」
「だって、おまえが案外ぷざけたおにいさんだって知ってるから。」
「ああそうですか。」
「んで、何?」
「……ああ、あのね。この間いっていたホームパーティのことなんだけど。」
「ん?」
「ダメになっちゃったんだ。二十三日。」
「ああ、そうっすか。……何、オンナとラブラブな一日か?」
「……そんなヒトいるわけないでしょう。いいヒトいたら紹介してよ。」
「ウチの姉貴とか。」
「あはははは……。でね。」
『ちょっと、今笑って受け流さなかった……!?』
「あ、ハンズ・フリーなんだ。」
『……少しは慌てなさいよ、失礼な。』
「食べたかったな、静流さんの手料理……。」
『ここぞとばかりにいうから信憑性が怪しいわ……。』
「ああもお、向こう行ってろよ姉ちゃんはっ!」
『いいじゃない。ねえ蔵馬くん?』
「蔵馬にきくな。怖がってYESとしかいえねえべ。」
ノーコメント。
「……で。二十三日は何があるんだ?」
「んー……?」
「お、プライベートなことだったな、……これは失礼しやした。」
「ああ別にいいたくないようなことじゃなくてね。あるヒトが急に遊びに来たいっていい出して……。」
「あるヒト?」
「そう。」
「っていうかさ、そいつも一緒に連れてくればいいじゃん。」
「え?でも……。」
「ああ、おまえのいう『あるヒト』なんて、いわれなくても分かるから。」
「そう?じゃ、その『あるヒト』が桑原くんちのクリスマス前祝いパーティに誘って、素直に『行く。』っていうと思う?」
「思わねえ。」
「でしょう?」
「……だな。」
「それに、今回はオレが誘ったわけじゃないから。彼のほうから来たいっていうからには何か特別な理由があるんだろうし、そんなときに『桑原くんのところに遊びに行かない?』とは、オレはとてもじゃないけどいえないね。」
「だな。」
「です。」
「了解いたしやした。蔵馬は欠席な。」
「うん、御免ね。折角誘ってくれたのに。」
「いいって気にすんな。ああそうそう、数学っていえばさあ────
御免ね。
でも、ありがとう。オレのことを友達だといってくれる瞳に嘘がないヒト。
金魚の水槽
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