Date
2 0 0 1 - 0 5 - 0 4
No.
0 0-
ノータイトル
n o t i t l e
今日も無事に一日が終わった。
「お疲れ。」
「お疲れっす。」
巣窟から少し離れたところで、甲と乙が酒盛りをしている。
「『掃き溜めに鶴』。」
「『掃き溜めに鶴』……?」
「ウチの頭のこと。」
「ああ……。いいじゃねえか、美人で。俺は好きだぜ。」
「おまえ、きかれたら殺されるぜ。あのにいちゃん、意外と強行だから。」
「馬鹿、俺が好きっていってんのは、蔵馬の頭領ぶりだよ。ただかわいいだけのぼくちゃんなら襲って、楽しんで、お終い。」
「如何わしい奴。」
「冗談だ、本気にするなよ。……だがあいつがかわいいだけじゃねえのは本当だ。」
「確かに。仕事してるときはこれ程そつがない奴はいない。」
「完璧主義っていうわけでもないんだろうが、まず失策はねえ。理不尽な真似もしねえし。」
「何より強い。」
「そう、仕事してるときはな。」
「そこなんだよな……、あの休日とのギャップはどこから来るのか。」
「まだちょっとガキだからな蔵馬は。ウチの二番目、ある意味たいへんだよあいつも。」
「『我侭坊や』に振り回されて。」
「案外楽しんでるのかもしれねえけどな。」
「いえてる……。だが振り回されてるっていえば、お互いサマなところはあるが。」
「そうだな、黄泉の向こうみずもかなりのものだし。」
「まったく。」
「よく切られないよな、あいつも。それだけ強いからかもしれんが。」
「それもあるが、なんやかんやいっても蔵馬、黄泉のこと気に入ってるからな……。」
「……何、黄泉って頭のお気に入りなの?」
「ま、お気に入りっていうか。かわいがってるってのは事実だぜ。」
「かわいがってるねえ……。俺にはおもちゃにされてるようにしかみえんが。」
「うん……、そうともいうか。」
「しっかし、蔵馬もあんな奴のどこがいいんだか。」
「さあ……。思い通りにならないところだろう。ああいう性格だから、ちょっとひと手間かかりそうな奴が、多分好きっていうより、放っておけないのかもしれない。」
「……ああ、そうかもな。あっさり冷淡なようで、結構世話好きだからあのにいちゃん。」
「あれは壷にはまってると思う。」
「お互いにだろう?」
「……しかしあのふたりも、もう少し歩み寄りが必要だと思うが。」
「それはいっても無駄だぜ。ふたりとも自分が折れることが嫌いだから。」
「そういうところは妙に似てるんだよな。」
「端々がな。しかし実際並べてみるとまったく対極で……。」
蔵馬が現れた。
「お疲れっす、頭。」
「なあ、黄泉知らないか?」
「みてないぜ。小便じゃねえの?」
「……。みかけたらPJ会議始めるから来いと伝えてくれ。」
「イエッサー。」
蔵馬が去った。
「……。」
「やっぱ、美人だな。」
「こういう組織には貴重な存在だよ……。」
「何だよ、そそられるってか?」
「いや、それはないな。何より俺だって命は惜しい。」
「は?何それ。」
「あれ、知らないのか?数年前、中途採用のおっさんが仕事の最中に斬られたの。」
「あああれ……、あのおっさんはちょっとしつこくいい寄っていたからな。さすがに蔵馬もキレたんだろう。殺られて当然だ。」
「って思うだろう?」
「?」
「でもあの件で、おっさん斬ったの黄泉なんだぜ。表向き蔵馬が制裁したってことになってるけど。」
「……原因は嫉妬だってか?」
「それを明言してしまうと、黄泉に殺される……。だから現場に居合わせた奴らはそれからしばらく一件には触れなかったんだが。」
「なんだかねえ……。」
「ふっ、かわいいもんだよまだ。」
「歩み寄る云々の前に、素直になるべきだろう。」
「蔵馬もな……、役に立たないとかいいながら認めるところは認めてるんだから、もう少ししっかり態度に出してくれればいいんだが。そうすればウチの組、今よりもっとよくなるぜ。」
「黄泉も直情型単細胞だから、ことばとして表に出たことしか信じないところがあっていけねえ。よおー……っくみてれば気づくはずなんだが。……あ、それは蔵馬もか。」
「確かに。あのにいちゃん自分のこととなると妙に鈍だから……。あれ程分かり易い奴の気持ちに気づかないとは。」
「そう考えると、やっぱり可哀想だな。」
「ん、ウチの二番目?」
「呼んだか?」
黄泉が現れた。
「おう、お疲れっす。」
「何のはなしをしている?」
「ん……?ウチの頭はべっぴんさんだなーってはなし。」
「それが酒の肴か、ばかばかしい。少し酔いを冷ますんだな。」
「ああ黄泉、蔵馬が探してたぜ。プロ会やるって。」
「ん、ああ分かった。」
黄泉が去った。
「……何が『ばかばかしい』だ。」
「てめえが一番入れ込んでるんだろう。」
「……。」
「ふっ……。」
「まあ、あいつ程ぞっこんではないにしろ、ウチの組で蔵馬に惚れてない奴はまずいないだろう。」
「そうだな。愛想なしの顔してるくせに、側にいても厭な気分にさせない。あの空気はなかなか心地いい。」
「意志は固いし。」
「融通はきくし。」
「俺はとりあえず、この組にも、頭にも文句はないぜ。」
「右に同じ。ただひとこといわせてもらえれば……。」
「?」
「折角美人なんだから、たまには笑ってくれるとありがたい。」
「ははは……、いえてる。乾杯。」
金魚の水槽
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