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ベイビー☆キャット  B a b y - C a t


「……おまえの見積もりは高過ぎるぞ。」
 すべての用が済んだ後、帰り際の彼が忌々しそうに睨みつける。
「まだ安いほうだと思いますけど。」
 オレは机に向かったまま、斜に彼を眺める。特別気にかける素振りをせずに、終始事務的に。……そのほうが彼に余計な負担をかけないで済む。
「今回だけは一通り無料奉仕にしましょうか。」
 オレとは短いつき合いではない彼は、多少のことでは動じない。
「ただより高いものはないんだろう?」
「その通り。」
「……。」
「値段つきのほうが、後腐れがなくて楽でしょう?いちいち『借り』だとか『貸し』だとか計算しなくても済むんだから。」
 そういって、オレは彼が正面に来るように椅子を回した。窓枠に腰かけて夜の空気に触れながら、彼は不図空を仰ぎみた。そして、独りごとのように小さく、
「提案がある。」
「提案?」
 訝しむ気持ちよりも興味のほうが深く、彼が再びオレをみ据えるのを待つ。まっすぐに視線を向けた彼だったが、口を開くときは躊躇う様子をみせたりするから益々気になる。しかし、そんな気持ちを悟られればすぐに口を閉ざしてしまうことを知っているから、
「どうぞ。」
 オレはいつものポーカーフェースで、淡々と次を促す。
 呼吸を整えて、彼がいう。
「……おまえの見積もった請求額を別の形で支払うことが、できなくはないか?」
「……別の形、って?」
「つまりだな、おまえは俺が無理難題を押しつけることが厭だと思っている。」
 厭だとは思ってないけど?
「だから……、俺が持ち込む頼みごとと同じ分量だけ、おまえの願いをきき入れてやれば、やれ請求だ清算だと面倒なことをせんでもいいだろう。」
 興味は充分に満たされた。なるほど、彼が考えそうなことだ。
 そして、彼がいい淀む気持ちも分かる。オレが厄介なことをいうとでも思っているのだろう。最近は少し意地悪が過ぎていたから仕方がないか。
 そう思いながらも、彼に対するかわいさも余った意地悪は簡単には治らない。
「で、オレの願うことがあなたの頼みごとよりも軽かったときの差額はどうします?」
「……物品で支払えばいいんだろう。」
 そういった彼の目が少しだけ怯えた子猫の目に似ていたから、思わず笑った。
「なぜ笑う……!」
「ごめん。……ねえ飛影、オレのこと、恐いですか?」
 笑いは止まらず、彼が機嫌を損ねる。
「今のいったことは忘れろ。」
 居心地が悪くなるとすぐに消えようとする彼を留める台詞は、
「今夜は帰らずに、朝までオレの側にいてくれませんか?」
「……。」
「何もしなくていいから。」
 彼が忌々しそうに振り返る。
 それでも、黙って頷くのを待って、オレは微笑む。


金魚の水槽

「誰も身体で払えなんていわないから。」「…フン、好きにすればいいさ。」
…この二人の、一番正しい上下関係だと思います。
※日付は、テキストファイルでの最終更新日です。(一部改作しております。)

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