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ビター・ユー  B i t t e r Y o u


「今日は疲れたか?」
「いや、大した仕事ではない。何もしない時間も多いしな。反って暇を持て余すほうが疲れるくらいだ。」
「暇は疲れるか。」
「それは貴様も同じだろう?……例えば、今俺としゃべること。」
「ん?」
「退屈か?」
「いや。」
「……。」
「……ああこれか?人間界の雑誌だ。最近よく出回るようになった。」
「そうか。面白いか?」
「いや。」
「……。」
「何だ?」
「ん?」
「こいつを閉じて欲しいならそういったらどうだ?」
「いや。俺は構わんぞ。」
「すぐに出て行くからか?」
「そうして欲しいのか?」
「そうなっても、オレは構わんが。」
「ならば、ここに居ることにしよう。」
「……。」
「貴様のいいなりになるのも癪だ。」
「そうか。だったら好きにすればいい。」
「ああ。」


「そういえば、知っているか?」
「ん?」
「人間界はこの時期、『バレンタインデイ』というものがあるらしい。」
「ああ。女が男に菓子を贈る、実に不可解な祭りだ。」
「フカカイ……?」
「で、そんな情報をどこから仕入れた?」
「人間界の雑誌からだ。今みているこいつにも書いてある。経済が活性化するそうだ。」
「……。」
「だから、オレも少しばかり貢献しようと思った。」
「ん?……何だ、これは?」
「フカカイなチョコレートだ。」
「不可解なのか?」
「ああ、……実に不可解だ。」
「これは、貴様が作ったのか?」
「いけないか?」
「ああ。」
「……。」
「まあいい。小腹も減ったことだ。」
「今食うのか?」
「ああ、いけないか?」
「いや。」


「何もいわないんだな。」
「何かいって欲しいのか?」
「普通はまず、感想などを述べるものではないか?」
「そんな残酷な真似はできん……。」
「……。」
「冗談だ。まずくはない。」
「そうか。」
「だが、うまいともいえんな。」
「そうか。」
「貴様にひとつききたいことがある。」
「何だ?」
「一度も味見をしていないだろう?」
「ああ。」
「……だからか。」
「……。」
「じゃあ、今味見してみるか?」
「?」


「今の手口は卑怯だぞ。」
「さあな。そういうことは、俺がこいつを口に入れる前にいうべきだ。」
「物はいいようだな、最低な男め。」
「それで?」
「ん?」
「感想を述べるものなのだろう?どんな味がした?」
「そんなもの。よく分からなかった。」
「そうか。じゃあもう一度試すか?」
「……。」
「ん?」
「……ああ。」


「どうだった?」
「溶けた。」
「……。」
「……。」
「俺もだ。」
「……。」


「なあ。この雑誌によれば、今日の一月後には男のほうから何かしら返却物を出さねばならんそうだ。」
「ああ、そうらしいな。貴様は何が欲しいんだ?」
「そうだな。」
「……。」
「赤子が欲しい。」
「そうか。しかしそれは時期尚早だな。」
「そうだろうか?」
「それに、諸問題もつきまとう。」
「例えば?」
「育児に関する制度が甘い。現状では休暇は許されても、その間の保障は何もない。先のことまで考えると、貴様と俺ではふたり合わせても金銭的に辛いものがある。人間界と通じるようになってから、今まで魔界には存在しなかった病気も増えた、健保も整わなければ不安だな。出生率が上がっているのに教育改革も進んでいない……。どう思う?」
「未来はないな。」
「体制を固めようとしている今ですらこれだ。改革には時間がかかる。これでは、数年後に現役の煙鬼か俺か貴様が上に立たなければ具合が悪い。ここで例えば幽助か蔵馬か黄泉が上に立ったとしよう。あいつらは自分のことしか考えない連中だ。今よりもよい世の中になるとはとても思えん。」
「オレたちもヒトのことはいえんと思うが。」
「だが俺たちは自分ひとりのことを考えているわけではない。俺と貴様、『ふたりのこと』を考えている。」
「……だから同じだと思うんだが。」
「それに、貴様のこともある。」
「オレか?」
「貴様は精神的に弱いところがある。今の状態では育児ノイローゼになるのではないかと心配だ、俺は負担をかけたくない。」
「そうか。」
「……。」
「上手く逃げる……。」
「……犯すか。」


「それでも一月後、どうしても赤子が欲しいと貴様がいうなら、協力は惜しまん。」
「そうか。責任はどうする?」
「決まっているだろう。世帯主は俺だ。」
「……。」
「そうと決まれば、事は確実に進めたいものだ。」
「ああ。」
「それには事前に予行演習も必要だろう。」
「ならば、そのための適切なスケジュールを切らねばならん。いつから始める?」
「貴様の都合に合わせる。」
「おまえは、明日は?」
「休みだ。」
「では今夜にしよう。」
「了解した。じゃあ、俺は一旦部屋に戻ることにする。」
「なぜ?」
「男には色々準備が必要なんだ。」
「そうか。オレは何を準備すればいい?」
「そうだな。とりあえず、俺を本気で愛せるかどうか、考えておけ。」
「ああ、分かった。だがひとつ疑問がある。」
「何だ?」
「おまえはオレを本気で愛せるのか?」
「感心できん疑問だ。」


「……溶けたか?」
「ああ。」
「もっと溶かすか?」
「……。」
「貴様はかわいい女だ。」
「おまえは最低な男だ。」
「さっきの疑問はもうきくなよ。」
「……準備があるのだろう?行け。」
「じゃあ、後でな。」
「ああ。」


「最低な男だ。」


金魚の水槽

会話の内容はシュールですが、当人たち、至って大真面目です。(笑)
まだ何となく「未熟」なフタリ。幼稚園生のコが色恋を大袈裟にはなしている様子に似ていて、何だか微笑ましいです。
※日付は、弊サイトでの掲示板掲載日です。

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