Date  2 0 0 1 - 0 6 - 2 3  No.  0 0- 

子供の視点  f r o m c h i l d 's e y e s


 この部屋には 【 蔵馬 】 がいる。

 ──本読んでるー。
「何読んでるの?」
「んー?これはね、『智恵子抄』。」
「あんまり字が書いてない……。」
「詩集だからね。」
「ボクにも読める?」
「うん……、読めるけど、キミにはまだ早いかな。」
「どんなはなし?」
「生命が燃える程激しく、心を切り裂かれる程切ない純愛に生きたヒトのはなし。修羅は『愛』っていう気持ち、分かる?」
「……分かんない。」
「そう。」
 ──何で笑うの?
「オレもね、分からないんだ。」
 ──なーんだ。
「だから読むのかな、本って。手に入れたいけど、届かないものがあるから……。」
「ふーん……。」
 ──よく分からない。
「ねえおじさん、ひざして。」
「ひざ?」
 ──蔵馬おにいさんの膝に座る。
「どうしたの、オレのこと嫌いだったんじゃないの?」
「へへ。」
 ──やだ?
「ま、いいけど。」
「ねえ、おじさんって、パパのことスキ?」
「そうだな……、好きだよ。なぜそんなこときくの?」
「……。」
「パパにきいてこいっていわれた?」
 ──首、ぶんぶんぶん。
「……好きだよ、黄泉のことは。もちろん、古い友人としてね。」
「それだけ?」
「うん、それだけ。今は黄泉のことを『好き』は他のヒトを思う好きと同じだから。」
 ──『今は』っていった。
「昔は違ったの?」
「昔?」
「うん。だってさっき『今は』っていったもん。」
「昔か……。そんな前のことはもう忘れた。」
「おじさん、子供に嘘吐いちゃいけないんだぞ。」
「……。」
 ──何で、何で笑うの?
「そういうところは子供扱いしてもいいんだ。」
「ぶう。」
「そう、『特別』だったのかな、やっぱり。……その頃の気持ちは、今はもう分からない。」
「何で?」
「時間は戻らないから……。でもそれは後悔するようなことではなくて、時間をさかのぼれば前よりももっと仲良くなれる関係があるのかもしれないけど、多分、そうしないほうが仲良くしていられる関係も、あると思う。」
 ──……よく、分かんない。
「ねえ、パパって昔から強かった?」
「うん。強かったよ。」
「おじさんも?」
「それなりにね。」
「パパとおじさん、どっちが強かったの?」
「同じくらい。」
「へえ。」
「黄泉はね、強くて刀剣さばきがかっこよかったんだよ。若い頃は向こうみずの無鉄砲で随分手を焼いたものだけど、今は性格も柔らかくなったし。今思うと、盗賊の能がなかった分、パパ業の能があったのかもしれないな……。」
 ──じゃあ、今のパパのほうがスキ?
「修羅、パパは優しい?」
「うーん、怒るとコワイけど、普段は優しい。」
「そう。じゃあ、パパのこと好き?」
「うん。」
 ──何で?
「ねえ修羅。」
「何?」
「髪、触ってもいい?」
「うん。でも何で?」
「似てるから。」
 ──えへ、くすぐったい。



 この部屋には 【 パパ 】 がいる。

「ただいまー。」
「修羅、蔵馬のところに行っていたのか?」
 ──な、何で分かるのさ!?
「盗みぎきしてたなっ!」
「いや。ただ、おまえの髪から蔵馬の匂いがしたからそう思っただけだ。」
 ──匂い?
「……ねえパパ。」
「ん?」
「あのおじさんのこと、スキなの?」
「ああ、好きだよ。修羅、もう蔵馬のことをおじさんって呼ぶの止めなさい。」
「いいよっていってたもん。」
「蔵馬がいいといっても、俺はいい気がしないんだよ。」
「何で、何でパパが厭なの?」
「……余計なことを気にするものじゃない。」
 ──いっつもはぐらかすー。
「おじさんもパパのことスキだってさ。」
「そうか。」
「ねえ。」
「ん?」
「パパとおじさん、ケッコンするの?」
「ぶっ。」
「スキ同士になったら、ケッコンしてフウフになるんでしょ?」
「……そんなことを、誰にきいたんだ?」
「おじさん。」
「(どんな教えかたをしたんだ、あの男は?)」
「そしたら、おじさんがボクのママ……?」
「そんなわけがないだろう。第一、性別が違わなければ夫婦にはなれないんだ。」
「えー、そうなの?おじさんそんなこといってなかったよ。」
「(肝心なことを教えろ……。)それに。」
「???」
「好き同士でも、一緒になれるとは限らないんだよ。」
「……。」
「『高嶺の花』ということばがある。」
 ──知らない。
「手の届かないところにいて、ただみ守ることしかできない存在のことだ。それは決して手に入れることはできない……。」
「何で?」
「手に取ろうとするだけでそれを傷つけたり、側に囲おうとするだけで哀しい思いをさせることがある。修羅にはまだ少し難しいかもしれないが、もし自分の欲のために大切なものを壊してしまったら、厭だろう?」
 ──……厭だ。
「ふふ……。少し離れて生きるほうが幸せな関係もあるというはなしだ。お互いにな。」
 ──何か、同じようなこといってる……。
「ねえパパ。」
「?」
「今日ボク他の部屋に泊まりにいくよ。だからパパ、おじさんを呼んでえっちなことすれば?大人になったらスキなヒトとえっちなことするんでしょ?」
「ば、馬鹿!誰に教わったんだそんなことを!?」
「幽助にいちゃん。」
 ──えっへん。
「(……俺の子供に余計なことを教えないでくれ。)」
「頭痛いの、パパ??」



 この部屋には 【 飛影と躯 】 がいる。

 ──躯おねえさんの隣に座る。
「えへ。」
「……ふ。」
 ──笑うとかわいいんだ。
「飛影、花梨水があっただろう。出してやれ。」
 ──おお、命令したー。
「ほら、取れ。」
「ありがとー。」
「おまえも取れ。」
「オレの分か?」
「ああ。時々ガキだからな。」
「……。」
 ──よく分かんない。
「ねえおねえさん。」
「ん?」
「あのおにいさんとケッコンするの?」
「いや。」
「何で?嫌いなの?」
「いや。」
「じゃあ何で???」
「あの男はオレの右腕だからな。」
「右腕?」
 ──右腕、くねくね。
「右腕とは結婚できないだろう?」
 ──ボクの、右腕?
「うーん、……できないと思う。ねえおにいさん。」
「何だ?」
「はなしきこえてたでしょ?」
「何のことだ?」
「とぼけても耳がダンボになってるよ。」
「こまっしゃくれたガキだな……。」
「おねえさんとケッコンしないの?」
「さっきそいつが答えた通りなんだろう。」
「???」
 ──よく分かんないー。
「ねえ、ケッコンするの??」
「そいつより稼ぎがあればな。」
 ──ほー!
「……飛影。」
「行ってくる。」
「ああ、気をつけろ。」
 ──飛影おにいさんは仕事で忙しい。
「……。」
「……。」
「よかったね。」
「ああ。だがあの男は嘘を吐くからな……。口先ばかりで、他に行く宛てもある。」
「ふーん。でも帰ってくるんでしょ?」
「多分な。」
「スキなんでしょ?それでいいの?」
「ああ。……ヒトの心はつないでおけないものだ。一時の欲求のために束縛するだけで不幸になる人生もある。特にあの男、……あれには自由で制約のない世界が似合う。」
「……。」



 【 結論 】
 ──オトナのセカイは難しい。


金魚の水槽

修羅くんの目から眺めた「彼ら」でした。子供の前では油断するのか、本音もチラホラ覗くオトナたちです。(笑)
シチュエーションとして怪しいですが、「後記」ということでご容赦ください。
※日付は、更新後記より。(常駐用に改作しております。)

HOME  MENU

Copyright (C) Kingyo. All rights reserved.