Date  2 0 0 1 - 0 8 - 1 8  No.  0 0- 



 オレは本を閉じる。そろそろ、お茶くらいは入れないといけない。
 その気配を察して、彼が素早く制する。
「構わん。もう消える。」
 立ち上がり、背を向けて窓際まで進んでいく。振り返りもしない。
 だが、不図彼は立ち止まる。そして躊躇いがちな声が……、
「……また、来てもいいか?」
「飛影……。」
 そのあまりにも配慮のないことばに、オレは悲しくて、それよりも無償に寂しくて、感情的に彼を責めていた。
「なぜ、そんな……。きかなければ分かりませんか!?」
 はっとする。
 彼が忌々しげな顔つきで振り向いた。そのままずかずかとオレに歩み寄ってくる。
 今までそんなことを一度も思ったことはないのに、オレは一瞬殴られる、と肩がこわばった。
 だが────
「あ。」
 彼は何の前触れもなくオレの口を塞いだ。
「ん……。」
 噛みつくような、荒っぽいくちづけだった。彼の右手は乱暴にオレの髪を掴み、左手が頬に優しく触れた。痛かったし、優しさなんて微塵もないような行為だったけど、オレには彼の熱情が切ないくらい感じられた。
 これが現実のすべて。
 ……ばかばかしくて涙も出ない。
 長い時間が過ぎ、オレは解放される。両肩を掴んで押し退けられた後、彼は素っ気無く歩み去り、窓枠に手をかける。
「俺は間違っていると思うか?」
 オレは違和感の残るくちびるを手の甲で拭った。
「分からない……。でも、あなたが間違っているとしたら、オレも間違っていることになるから……。」


金魚の水槽

HOME  MENU

Copyright (C) Kingyo. All rights reserved.