Date
2 0 0 4 - 0 2 - 2 1
No.
0 0-
ヒゲ
' w h i s k e r s ? '
夜。鍛冶は鏡に向かっていた。手には刃の短い小刀。灯りがひとつ灯るだけの薄暗い作業小屋に、不敵にきらりと光る。
「何してるの?」
と尋ねるのは、毎度お馴染み、鍛冶の棚作りの寝台に寝そべる、妖狐の何とかチャンである。
「呼んだか、くろまめチャン。」
「くらまチャンだよ。(何で豆?生き物じゃないし。)」
鍛冶は小刀を顔に当てる。
「髭。剃ってるの。」
「……ふうん。」
蔵馬は棚作りの寝台から身を乗り出すようにして、珍しそうに鍛冶をみ下ろす。実際、独りごとで呟くことばは「へえ、珍しいな。」である。
「そうか?」
「ああ。髭を剃っているところなど、みたことないから。」
鍛冶は顔に当てた小刀を白い手拭いになする。
「そりゃあそうだろう。髭なんて、人前で剃るものじゃないからな。」
「……ふうん。」
蔵馬は相変わらず、まじまじと鍛冶を眺める。
確かに髭を剃るところなど、他人にみせるものではない。だから、そう真剣に眺められても……。
鍛冶は鏡に映した頬の肉を片手で伸ばしながら、少し決まりが悪い気がしてきた。
「こら。まめの子。」
「何?(豆じゃないけど。)」
「いつまでもみているなよ。気になって、手元が狂いそうだ。」
そして鍛冶は、
「何がそんなに珍しいんだよ?」
といった。
「髭はオトナになれば自然と生えるものだ。おまえだって、男なんだから、髭くらい生えるんだろう?」
髭を剃る行為など、珍しくも何ともないだろう、といいたい。
すると蔵馬は、迷うことなく、己の顔の横側に指で横線を三本ずつ描く真似をした。よく、幼子がイヌやネコの顔を描くときに、鼻の横っちょ辺りに当たり前に引く、あの線である……。
「ヒゲってこういうの?」
「うーん、そっちかい。」
金魚の水槽
遠い記憶の中では、生えていたのでしょうね…。一応お狐さんですし。
※日付は、更新後記より。
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