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口唇欲  L i k e a S c e n e i n a F i l m


 『ニューシネマパラダイス』。
 イタリアの名画。なにげなくスイッチを入れたテレビ画面にそのオープニングが映し出された。
 休日の午後。
 そのエンディングに差しかかったところで、意味がわからなそうな顔をしているヒトがひとり。
 そう、「どこがおもしろいんだ?」的な顔をしている彼が、
「なにがおもしろいんだ?」
 予想通りのコメントをするから、そちらのほうがおもしろい。
「なにが?って。」
 説明いたしましょうか。
「きびしい検閲でことごとく切り取られてしまったフィルムをつなぎ合わせて観ることに映画に対する愛情とノスタルジアを感じるんでしょう。」
「だから、なにがおもしろいんだ?」

 つまり、彼の示す「なにが」の正体が問題になる。
 そこで考えを巡らせて思い当たることがひとつ。
「『口唇欲』ってご存知ですか?」
「こうしんよく?」
「くちびるに受ける刺激が心地よい、というはなしですよ。くちびるには多くの神経が集中しているそうで、僅かな刺激でも感知できるほどらしい。まあ、食という生命維持に関わる重要な器官だからなんでしょうけど。くちびるを重ねる行動はその鋭敏な器官に絶妙の刺激を与えて、脳を通すとその刺激は快感として受け取られる。心地よい刺激を手軽に手に入れられるとしたら、彼らの行動は本能にしたがっているといえますね。」
「そうなのか。」
 彼が自分のくちびるを指で触っている。
 それでもやっぱり納得できないようで、
「そんなことは、ない。」
「自分でやっても無駄だと思いますけど。無意識のうちに感覚を制御してしまうから。」
 変なところで素直な行動をとるから、やっぱり彼を見ていると飽きない。
 だから、悪気はないけど、少しだけからかってもいいですか。
「興味あるなら、試してみますか?」


金魚の水槽

※日付は、弊サイトでの初回掲載日です。すごい、昔の文体だ…。

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