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スター誕生
☆
剣術といえば、目も当てられない。
「や。や。や。やん。」
といいながら、丙は乱闘に巻き込まれていた。敵地(ターゲット)の敷地内へ踏み込んだところである。指揮に就いていたのは蔵馬で、滞りなく進めばこれ程の大乱闘に発展することはなかったのだろうが、味方に密告者がいたという情報もある。
何にせよ、待ち伏せていた数が多過ぎた。暗闇を、敵か味方か分からないまま立ち回る者共へは「ゴミのようだ。」と侮蔑の視線をくれてやり、味方に密告者がいたという噂についても「些細なことだ。」と蔵馬は思う。また一人斬り捨てる。そして……。
丙は当初、乱闘が始まる気配を察した蔵馬に、
「外にいる甲に状況を知らせろ。」
といわれ、この場からは早々に離れる筈だった。……察しのいい読者殿には既にお気づきのかたもいると思うが、蔵馬は暗に「おまえは邪魔だから。」といった意味をオブラートに包んだ優しい形で、戦闘では役に立たない若者へそっと告げたものであるが、現実は、闇に乗じて垣根沿いに這って逃げ出そうとした丙の前に、重そうな甲冑(かっちゅう)に身を包んだ敵の門兵が立ち塞がり、すらりと抜き払った太刀を上段に構え、いきなり斬りかかってきたりする。咄嗟に丙も、腰に携帯していた細身の太刀を抜き、敵の攻撃に果敢に挑んでみたものの、体格差といえば縦尺も横幅も丙の二倍はありそうな大男である。何度も斬りかかられるのを、圧されながら防ぐだけで精一杯である。
「や。」
また防ぐ。
「やん。」
また一歩退く。
そうこうしている内に、丙は涙目になる。……しかしこの男はよく泣く。感情と涙が直結されているらしく、うれしくても泣くし、悲しくても泣く。当然ながら怖くても泣くし、実は何もなくても泣けるらしい。こういう女がいたら相当迷惑なことだろうと思うが、幸い丙は男であり、甲などには、
「渇水期には丙を苛めれば水源が確保できる。」
とまでいわれ、まあそれなりにかわいがられてはいるようだ。
……と、余談であった。丙はいよいよ力尽き、攻防を五分で収めるのももはやこれまでかと思われる。敵の太刀を受けながら、丙は呟く。
「頭、御免なさい……。」
更にいう。
「黄泉さんにも、御免なさい……。」
そして、
「丙ちゃんは……、丙ちゃんは……、
お星さまになりますぅ〜……!(キラリーン☆)
────というはなしを後日きき、黄泉は激怒した。
「ぬぁにぃがぁ『オホシサマニナリマス』だあああっ!!(怒)」
「(ひーん。)」
ちなみに渦中の夜、丙は危ういところを蔵馬に助けられ、「死に時を間違えるなよ。」と冷静な叱責を受けた後、蔵馬の命を受けて撤退する味方の何某に強かに門外へ摘み出されたのだった。黄泉は怒鳴る。
「おのれの剣術の弱いことを棚に上げて、諦めてどおするっ!死んじまったらお終いなんだぞおっ!!」
黄泉の怒りがいい具合に収まらないので、傍らで様子を眺めていた蔵馬が冷静にたしなめた。
「まあよいではないか、皆無事に帰還できたのだから。それに、事態そのものはオレの失態。責める相手が違うぞ?」
黄泉は「何がよいことか。」と凄んだ。ちなみに、黄泉は今、丙の襟首を掴んで持ち上げている。丙は首から下が「ぶ〜らぶら」、意識もそれこそ「ふ〜らふら」の状態なので、このままでは本当に「死んでしまったらお終い。」である……。
「黄泉よ。」
蔵馬は由々しそうな顔をした。
「丙がスターになりたいというのは、そんなにいけないことなのか?」
「(え?何だって?)」
たまたま背後を通りかかった甲が、
「それ意味違うから。」
「(え。何で?)」
そして黄泉の絶叫が闇夜にこだまする。
「ええい、これから剣術の特訓だっ!
とっくんだああああーっ!!
────といったはなしが実際に起こったかどうかは、正直なところ作者としては責任を持ちたくない。何せ千年以上昔のはなしである。千年といえば、人間界では鎌倉幕府すら立ち上がっていない。それを、憶測だけで兎や角いうのは、実に一方的で横暴な行為といえるのではなかろうか。しかしながら、かの男が後に子に行うスパルタ教育の原点がここに在るらしいことは、憶測だけで否定するには些か一方的で横暴な……。
金魚の水槽
何だかよく分かりませんが、まあ、丙チャンへの哀歌ということで。。。
※日付は、更新後記より。
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