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Valentine Separate


「で。最近どうよ?」
「『どうよ?』……って。」
 世の中で一番困る質問だと思う、よ?



 喫茶店の1ブースに昼日中、野郎フタリで向かい合っているのも「どう」かと思うけど、
「結構フツーですよ。普通に働いて、普通に食って、寝て。……時々叩き起こされて。」
「はあ。。」
「最近は、ニンゲンらしい生活、してるかな……。何だか、一時期前に戻ったみたいだ。」
「ニンゲンらしい、ね。」
「そう、それなりに。」
 叩き起こされる部分を除いて。
 そいつはよかった、とかいいながらコーラに手をつけている彼に。今度はオレからの質問。
「キミのほうこそ、最近どうなの?」
 お返しにきいてやった。
 さあ、どう答えるか?意味深に笑ってみていたら、
「どう。」
「……。」
「……っていわれてもなー。」
 彼は頭を掻きながら困った顔をした。分かり易いヒトなので本当に助かる、オレは笑ってこう戒めた。
「困るでしょう?」
「……そうっすね。」
「明確な意図がみえないと、答えようがないのですよ……。」
「……。」
 自分でオーダしたフレンチ。ようやく手をつける気になる。……というより口の中が甘いんですけど。
「キミは、いつまで経ってもコーラですね……。」
 意味もなく、ちょっと憂い気味にいってみる。
「おめえこそ、いつまで経ってもコーヒーですね。他のモン注文してるとこみたことねえぞ、最近。」
「成長する要素がないのですよ、きっと。」
「う……。」
「何?」
「……いや。今。すんげえ厭味をー、イワレタ気がしたんですけど。」
「気のせいですよ。……よくないなあ。悪い方向に考えるクセをつけると、年を取るのが早くなる。」
 舌を洗う感じにコーヒーを一口。
「あのー、ソッチはもう食わないんスか?」
「ん?おいしーよ。ひとつのグラスの中にチョコレート・ソースが100ccも入っている。」
「……今、威嚇した?」
「そうみえました?」
「……。」
「よくないなあ、桑原くんは……。(^-^)」
「コワ。」

 本日はお日柄もよく。
 いつものオーダの後に勝手にチョコレート・パフェなど頼まれて、「今日って何日だっけ?」などと、きかれたりする。
「ああ、そういうことね。」
「そう。そういうことっす。ま、一応『ありがとう。』っていっといたら?」
「ありがとう。今度同情するときは、明治堂のチョコレート・マフィンがいいなあ。」
「……年下にたかるなっちゅーの。」
 気を利かせてくれるのは本当にありがたいと思ってる。ただ、ちょっとだけいわせて頂けるなら、
「ねえ。」
「ん?」
「今回誘ったのって、キミだよね?」
「おう。」
「この店入ってから、会話らしい会話はさっきのが初めてで、それまでずーっと、雰囲気がしめやかなのはなぜ?」
「……。」
 分かり易いヒト過ぎるのも問題かと思うが……。
「もしかして、他にしゃべることないなーとか、思ってる?」
 試しにきいたら彼は、
「だってなー……、映画面白かったってはなしは映画館出てから散々したし、おめえとは普段しゃべってるからこれといって話題も残ってねえしな……。」
 図星な顔をして困るなよ。。オレが迷惑かけているみたいじゃないか。
「今日は楽しかった。」
「へ?」
「だから、キミはもう帰ったほうがいいよ。今日は家で想いビトが待っているんじゃない?最近、仲いいんでしょう?」
「ああ……。……居ないんスよ、今日は。」
「え、何で?」
「姉貴と温泉行っちゃいまいした。。。」
「……。」
「雪村も誘われたっていってたから、一緒じゃねえかな。」
「それはそれは……。静流さんも策士ですね、完璧にこの時期を狙い定めてる。彼女のしたり顔が目にみえるようだ。」
「いーんですけどねー。(T_T)」
「しかし、女性陣は元気ですね。」
「これも平和な証拠だろ。」
「それに比べて、何だろうね?」
「ん?」
「男同士で誘い合って、リバイバルのスターウォーズなんかみて、喫茶店でテーブルにチョコレート・パフェを乗せている。」
「……。」
 オレは真面目にきいてみた。
「これって寂しくない?」
 彼も真顔で答えた。
「別に。」
 だからオレため息の、
「ああそう。きかなきゃよかった……。」
「だってよお。寂しいのっておめえだけだろ?」
 ……済みません、さり気なく厭味だと思うんですけど。
「いいますねえ……。」
「あ、おめえだけじゃねえか。」
「『オレだけ』だよ。実際のところ。」
「でもよ……。」
 彼の口から「ヒ」の字が出る前に口火を切った。傷口は小さい内に塞ぎたいから。
「彼は駄目だよ。幸せだから。」
「はあ!?アイツが?」
「そう。意外と手堅いんだよ、あのヒトは。あの若さで既に身を固めようとしてるし。」
「え?マジで??」
「いやそれは嘘だけど。」
「嘘かよ。。。」
「独り身で寂しい野郎はオレだけか……。」
「高校の頃はモテてただろーが。」
「高校なんて、卒業しちゃえばあっという間に忘却の彼方ですよ。」
「そうだろな。おめえ、あっさりしてるもんな。」
「今はとりあえず所属不明の生命体になっちゃったからな……。」
「所属してるだろ?会社に。」
「でもまだケイヤクだから。立場もぷーたろーに近いし。」
「……。」
「それでも年賀状とか、来るんですよ。未だに。名前も知らないコからも。」
「へえ。だったら選り取りみ取りなんじゃねえの?」
「それは、立場を置き換えて考えてみるといい。喜べないと思うよ。特にキミは真面目だから。」
「そういうモンかね。」
「みんな興味本位なんですよ。動物園のサルみたいに、遠くからみている内は楽しいけど、こっちから近づけば逃げるんですから。」
「はあ……。いい男も辛いってか?」
「まったくですよ。」
「……厭味にきこえねえところがまた寂しいな。。」
「キミは、いつまで経ってもコーラですね……。」
「そのはなし、さっきしたし。。。」
「……かといって。」
 近づいて逃げられなかったとしても、喜べないと、思うよ。

「駄目だね……!」
「へ!?何が??」
「あ、御免。独りごとです。」
「おめえも真面目なんだよ。フツーに手え出せばいいだろ。」
「……桑原くんのことばとは思えませんね。」
「一般論としてさ。」
「一般論としても。……そこはフツーには考えられないな。」
「何。ってことは、もしかして蔵馬、スキなオンナでもいるのか……?」
「いやそれはいないけど……。」
「いねえのかよ。。。(怒)」
「まあ、いたとしても踏ん切りはつかないと思いますよ。事情の知らないヒトと一緒になったとして、可哀想な思いをさせないとは限らない。」
「可哀想な……って、今、人間界平和だぞ。」
「でも、妖狐蔵馬を飼いならせていないから。」
「?」
「あのヒトは、女性があまりスキじゃないみたいだからな……。」
「『あのヒトは』ってオイ。。」
「彼が女好きだったら人生変わってただろうな。……まあ、それも良し悪しか。」

「例えばさー。どういうタイプがスキなんだ?」
「どういうって……。んー……。」
「……。」
「キミみたいなヒト。」
「オイオイ。。」
「っていうかね。キミはオレがどういう生物か知っていて、その上で人間社会を基盤としたつき合いをしてくれるでしょう。そういうのって助かるし、気持ちも楽だからね。」
「はあ……。んじゃ事情が分かってればいいんか。」
「まあ、それだけじゃないけどね。オプションでそういうのも在りかな、というはなし。」
「だったら居るぜ、そういうヒト。」
「嘘?どこに?」
「ウチのねーちゃん。」
「……いや〜、気の強いヨメはいらんな。。……ウチ、意外と保守的だし。」
「……。」

 でも、考えてみれば同じだね。キミも、オレも。
「ん?」
「シアワセを手にするためには、種を隔てる高い壁の存在を常に考慮する必要がある。」
「ま……、そういうことにはなるんかな……。」
「キミが人間界の女性を愛し、オレが魔界の女性を愛することになればまた別か。……んー、実際のところオレってどちら側の存在なのだろう?」
「……あ、あのさ。」
「ん?」
「ぶっちゃけすんごい飛躍してんだけど。」
「?」
「こ、混血児って生まれたりすんのかな……!?」
「すると思いますよ?浦飯幽助の例もある。」
「あ……、そうか。」
「だが、可能性としては薄いかな。結局、細胞レベルのはなしだし。受精する以前に敵対する細胞として食い尽くす可能性のほうが高いかもね。」
「……あらこええことゆーのね。。」
「その反対だって、考えられないことはないでしょう。どこの世界でも弱肉強食、案外キミのほうが食われちゃったりして。カッ!とね。」
「……。」
「くすくす。そんなコワイ顔するなよ、冗談なんだから。」
「可能性の問題か……?」
「そう。結局のところ、似通った性質を持たない限り無理なんですよ。ただ、それを望まなければ、お互いに愛情を持つのは自由だと思います。……今は深く考えなくていい。」
「はあ……。色々考えてんだね。」
「うん。キミがオトナになったらはなそうと思ってたんだよ。(^-^)」
「はあ、そいつはー……。。。」



 ────けどよ、いざとなったら越えるんじゃねえの?」
「え?」
「障壁をよ。ひょひょいっと。」
 彼は、右手で軽く壁を越える真似をしてみせた。
「そうだね。キミはそうすればいい。でも、オレはそういうのは面倒臭いから……。」
「?」
 オレは前方に右の正拳を繰り出し、
「ぶち抜く。」
「……。」
「と、これは冗談ですけど。正直あまり考えたくないな。男なんて、いざとなるとこれ程弱い生き物はいないんですから。自分自身もそうだと思うと、ぞっとしないでしょう?」
「がああ!」
「……何??」
「オレって間違ってんのかなー!??もしかして、すげえ軽いことしてんのかな?」
「間違ってると思うなら止めれば?」
「……あっさりしてるね、おめえは。。」
 それに。

 キミが手を引けば心労が軽くなるヒトがひとり居るな……。とか。思ってしまった。。

「良し悪しだな……。」
「は??」



「くしゃみ?……何だ、風邪か?」
「ただの悪寒だ。ち、最近はどこの世界にも敵が多くてかなわん。」


金魚の水槽

男同士の会話─ということで、コッチが本物の二人です。(笑)
桑原くんと居るときの蔵馬くんはとても気楽そう。トボけたことをいってもツッコんでくれるからかな?
※日付は、弊サイトでの初回掲載日です。

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