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笑劇の事実  F a r c i c a l N i g h t


『蔵馬。』
『ん、黄泉か。どうした?』
『俺は。』
『ん?』
『……お。』
『?』
『おまえを好いている……。』
『うん。』
『……。』
 ……「うん。」って、あっさりしてるな相変わらず。
『……で?』
『だから。……蔵馬。』
『ん?』
『俺を……。』
『うん。』
『俺を、俺を愛してくれ……!』
『いいだろう。脱げ、黄泉。』
『へ?』
『「へ?」じゃない。早く脱げよ、かわいがって欲しいんだろう?』
『あ、あの……。蔵馬?』
『おまえが脱がないならオレが脱がせてやる。』
『いや、そうじゃなくて……!』
『……さて、どう料理しようか……?』
『や。』
 ────
「……いや、そ。それは困るぞ蔵馬……。」
「どれが困るんだ?」
「え?……わあっ!!!」
 目を開けると、今顔を合わせると非常に困る奴がいた。
 いつの間に俺の寝床のある幕の内に入ってきたのか、蔵馬が俺の枕元にしゃがみ込んでいる。長い髪を筆にみたてて、細く束ねたそれで俺の鼻や耳の辺りを、くすぐって遊んでいたらしい……。
「お。」
「……。」
「お早う、蔵馬。」
「まだ丑の刻だぞ。」
「あ。……そうですか。」
 ……なぜ敬語なのだろう俺は?
 寝起きから妙に焦っている俺とは対照に、奴はいつもの無表情と無愛想でその場に胡坐を掻く。不機嫌に髪を掻き上げ、なぜか後ずさり気味な俺を興味のない眼差しで冷ややかにみ下ろす。
「おまえは、オレの機嫌を損ねさせる天才だな。」
「……済まん。」
「ん……?まだ仔細までははなしていないが、なぜ自分から謝るんだ?」
 なぜ、だろうな……?
 俺は落ち着きなく頭を掻く。だが俺は、蔵馬の気にかかる存在にはなり得ない、奴がつまらなそうに吐くため息をきく。後ろめたさのせいか、
「ど、どうして居るんだ?」
 厭にことばが上擦る。
「どうしてって。おまえがオレを呼ぶから。」
「は?」
「だから、呼ぶから来た。……『蔵馬。』、『蔵馬。』って、うわごとのようにいっているから、どんな急用なのかと思って寒い中起きてきたのに、おまえは気持ちよさそうな顔をして寝ているのだから……。それで、ちょっと腹が立ったから、起こしてみた。」
「……。」
「……分かった?」
「は、はあ……。」
「で。」
 奴は胡坐の姿勢から身体を前屈みにさせて、俺の顔を不思議そうに覗き込む。
「何が困るんだ?」
 う……。それは、今問われると一番困る質問だぞ。
 だが、
「オレはおまえを困らせるようなことをしているのか?」
 蔵馬、淡々ときく。
 俺が事実を正直にはなしても、この『淡々』は変わらずに続くのだろうか?少し興味があるが、それよりも後に起こる事象の怖さのほうが勝るので、何もいえない……。
「……済まなかった。」
「うん。」
「もう、『呼ばない』から……。」
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
「分かった。」
「ああ……。」
「よし。じゃあ寝ようか。」
「へ?」

 ……『寝ようか。』って?

「寝る……?」
「ああ。」
「こ。……ここ?」
「そう。ここ。」

 俺の寝床だぞ……!

 死にそうなくらい心臓が活発に働き出した俺を余所に、蔵馬は特に思うことのないときの味気ない態度で、傍らにたたまれた毛布を引き寄せながら独りごとを呟く。
「もう呼ばないといわれても、やはり気になって眠れそうにないから、今宵はここで寝ることにする。」
 淡々と動くところをみるとそこに否応をいう余地はないらしいが、俺の立場からいわせてもらえるなら、

 こんなに『おいしいはなし』があって良いのだろうか……!?
「黄泉、鼻から血が……。」

続く ...

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夢の中ではどのくらいまで進んでいたのでしょう…?嗚呼、コワイです。
※日付は、弊サイトでの掲示板掲載日です。

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