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企画崩れの対談  p e a c e f u l t i m e s


 (その5)
 ドアの張り紙には、毛筆の達筆(縦書き)で『猛犬注意』と書いてある。

蔵馬:(オレの字だな。うん、もう何もいうまい。)

 入室してください。

蔵馬:失礼しま……。

 妖狐蔵馬はベッドの上に両足を投げ出し、隣室から呼んできた黒鵺サンに足の裏などを揉ませている。

蔵馬:←脱力中
妖狐:もっと上。
黒鵺:え、ここ?
妖狐:あ。もっと強く……。
黒鵺:え、こんな感じ?
妖狐:ああ、気持ちいい……。黒鵺よ、おまえは本当に、揉み揉み、上手だな?……ああ、止めないで、続けてくれ。おまえの揉み揉みが、オレはダイスキダー。
蔵馬:ええと。。。いい加減怒りますよ?
黒鵺:あ。蔵馬の応用編だ。
蔵馬:誰が「応用編」だ。黒鵺。
黒鵺:ん?
蔵馬:はうす。(と、戻るように促す。)
黒鵺:……へーい。
妖狐:黒鵺。もう行ってしまうのか。もっと揉み揉みしてほしいのに。
蔵馬:(これが過去の自分じゃなければ、さっさと隣の部屋に放り込んで、思う存分揉み揉みさせるんだが……。)
隣の部屋のオジサン:呼んだ?(と、ドアの隙間から顔が覗く。)
蔵馬:うん、今顔出したらコロス。

 己の過去と素直に向き合う現実が、時には必要になるというはなし──

蔵馬:そう書けば、きこえはいいですがねっ。
妖狐:なあお父さん、さっきから誰とはなしているんだ?
蔵馬:(お父さん!)
妖狐:え、だって、おまえが来るまでの間に、黒鵺におまえという男について色々と尋ねたのだが、曖昧にことばを濁した後で、「ネタバレすると面倒だから、『お父さん』って呼んでおけばいいよ?」って、いわれたぞ?
蔵馬:ネタバレって。。。
妖狐:黒鵺曰く、おまえはオレの過去をすべて知っている様子。何だかよく分からんが、それなりに血もつながっているのだろう?
蔵馬:うーん。厳密には、血はつながってないかな……。(憑依体なもので。)
妖狐:え、じゃあ「お義父さん」!?
蔵馬:(どうしようかな、コイツは……。)か、家族構成が複雑になるから、お父さんでいいよ。
妖狐:そうだな。「お義父さん」では読みかたは同じでも一文字多いという無駄が生じる。故に、「お父さん」のほうがよいとオレも思う。
蔵馬:(どうしよう。このツッコみどころが満載な発言たちを……。)そうだね、「くらま」、『無駄』と『手間』と『暇』ということばが嫌いなんだよね?
妖狐:ほお、よく知っている。流石はお義父さん──じゃなかった、お父さんだ。
蔵馬:(面倒臭い!)
妖狐:では、早速だが、お父さん。
蔵馬:は、はい?
妖狐:喉が乾いたからお茶。あ、あとわらびもちくいたい。
蔵馬:……ハア。←ため息

※※※

妖狐:はー、かんろ、かんろ。←完食しました
蔵馬:(ものすごく無駄な時間を過ごしたかもしれない……。)
妖狐:何だ、さっきから険しい顔をして。
蔵馬:いや。……いい。
妖狐:いいたいことがあるならいっておいたほうがいいぞ?腹の中にストレスをため込むのはよくなズズズ。←途中からお茶を飲んでいる
蔵馬:(ぴく。)
妖狐:ん?
蔵馬:いや……。(どいつもこいつも、状況をわきまえず、好き勝手やっているな。)
妖狐:それにしても、このわらびもち、うまかったなー。……黄泉に、土産に持って帰ろうかな。
蔵馬:え。
妖狐:???
蔵馬:ううん、何でもない。
妖狐:……何だ、おかしな男め。
蔵馬:(ああ、その『おかしな男』が将来のおまえの姿だよ?──などとは、口が裂けてもいえない。。。)
妖狐:そういえば、黄泉って今、何をやっているのだ?
蔵馬:はい!?
妖狐:何だ、いきなりでかい声を出して。気をつけてくれんか、オレの耳はパラボラアンテナのようにあらゆる波長を集音するのだ。
蔵馬:パラボラ……。
妖狐:なあ。黄泉、元気?
蔵馬:ええ、と……。オレが黄泉の動向を知っていると、なぜ思うのかな?

 蔵馬は、暗黙の内に心に刻み込まれている、黄泉については絶対にネタバレしてはならない──というある種の脅迫めいた感情から、不自然な作り笑いと共に、声色までが優しく変化するのだった。

妖狐:何かきこえたよ。
蔵馬:空耳です……。(だからネタバレって。)
妖狐:なあ。黄泉はまだ盗賊、やっているのか?
蔵馬:え。と。盗賊ではないかなー……?
妖狐:じゃあ。今。何やっているんだ?
蔵馬:ええー……。
妖狐:……。(じっとみつめる。)
蔵馬:そ、そうだっ。じ。自治体のトップを勤めていました。
妖狐:じちたい?
蔵馬:そうそう。(本当は国王だが、コイツにそんな事実を伝えたところで、何もよいことはないと思う。) ※コイツ=自分だよ
妖狐:立候補したの?
蔵馬:そうですね。
妖狐:で、当選したの?
蔵馬:まあ……、そうですね。
妖狐:ふうん。なまらすごいね。
蔵馬:(うん、すごいすごい。……って、え、え?)
妖狐:……で。「オレ」は?
蔵馬:はい?
妖狐:「オレ」は、今。何をしているんだ?
蔵馬:「オレ」って……。(困ったな。オレにどう答えろというのだ……?)
妖狐:……まさか死んだ?
蔵馬:生きてますっ。

 蔵馬は思った──これはファンタジーなのだから、多少のネタバレがあったとしても許されるだろう、と──

蔵馬:思ってませんよ。
妖狐:(誰としゃべっているのだろう?)
蔵馬:……分かった。「オレ」について教えればいいんでしょう?「オレ」は一応健在です。盗賊は十数年前に廃業して、今は普通にサラリーマンの真似事を……。
妖狐:ええー、何で黄泉が自治体のトップで、オレは普通のサラリーマンなんだー?(ひいきだひーき。)←ものすごく不服そう
蔵馬:そんなこといわれても。それに、今のはひいきじゃない。大体、「くらま」は「サラリーマン」が何か分かっているのか?
妖狐:サラリとしている。
蔵馬:サラリとしている(笑)
妖狐:(莫迦にされた!)
蔵馬:いつまでも優しいと思うなよ……?←お父さん、キレ気味。
妖狐:ところでお父さん。
蔵馬:はい、なんですか。
妖狐:隣の部屋の、あの『優しそうな男』は誰なのだ?
蔵馬:え?『優しそうな、男』……?
隣の部屋のオジサン:呼んだ?(と、ドアの隙間から顔が覗く。)
妖狐:(手を振る。)
隣の部屋のオジサン:(手を振り返す。)
蔵馬:(……ハッ。初対面っ。)

 説明しよう。隣の部屋のオジサンは、過去の姿と現在の姿が、別人の如く異なっているのだ。それは、過去の彼をよく知っているはずの南野秀一くんでも、第一印象では全く気づけなかった程に。アー、タイヘンタイヘン☆

妖狐:何かきこえたよ。
蔵馬:気のせい。
オジサン:さっき会ったばかりなんだよね?妖狐の「くらま」?
妖狐:おまえ(お父さん)が来る前に少しはなした。で、コレを貰ったよ。(と、傍らから何やらゴソゴソと取り出す。)
蔵馬:こ、これは……。
妖狐:「白装束だよ〜。」っていわれた。
蔵馬:それバスローブっ。
妖狐:素肌につけると強くなれるんだってー。(本当?)
蔵馬:うーん。。メンタル面はかなり強くなるかな。。。(色んな意味で。)
妖狐:なあ、紹介して?
蔵馬:え。
オジサン:(にこにこ。)
蔵馬:あ。あのヒトは。(小声で、)白昼夢の応用編だよ。
妖狐:……。
オジサン:(にこにこ。)
妖狐:……?
オジサン:(にこ?)
妖狐:(!)いじめられるっ!!!
蔵馬:……。
オジサン:あれ?おかしいなあ。俺、キラわれてる?
蔵馬:キラわれてないと思っていたのか……?
オジサン:おーい、「くらま」ー。降りておいでー。
妖狐:←天井に張りついている
蔵馬:(重力。。。)
妖狐:おまえ(お父さん)は知らんのだ。オレがその昔、この悪魔のような男にどれだけ虐げられてきたのか。
蔵馬:(知ってるよ……。)
妖狐:日々繰り返される数々の責め苦を耐え忍び、オレは白昼夢に対する耐性を……。
オジサン:その耐性、どれだけ有効なのか試してあげようか?
妖狐:××されるっ!!!
蔵馬:(耐性。。。)
オジサン:伏せ字にはツッコミ入れなくていいの?
蔵馬:世の中には伏せておいたほうがいいことも沢山ありますよ。
オジサン:あー、秀クン。もしかして恥ずかしい動詞を当てはめて考えてる?いやだなあ、かわいい顔してエロいんだから♪
蔵馬:だまれ。
オジサン:よし。じゃあ、そっちのほうの「くらま」に、伏せ字の部分を解禁して貰っちゃおうかな?



妖狐:ほぐされる。
オジサン:ほぐされる(笑)
蔵馬:……。

続く ...

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