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企画崩れの対談  p e a c e f u l t i m e s


 (その7)
 ドアの張り紙には、『鍛冶屋の小屋』と書いてある。

蔵馬:鍛冶屋の、小屋??

 入室してください。

蔵馬:(これが黒鵺の声か。何のアルバイトだ……。)失礼します。
鍛冶屋:らっしゃい。
蔵馬:(びくっ!!)

 扉を開けると、鍛冶屋の小屋だった。

蔵馬:←放心中
鍛冶屋:ん。何だ。初めてみる顔だね。鍛冶屋のご用かぃ?
蔵馬:え。あの。えー……と。。

 挨拶をしてください。

蔵馬:(これも黒鵺の声か。イラっとする。)こ、こんにちは。
鍛冶屋:ん?何だぃ?坊主、今日はお家のヒトのお遣いかぃ?
蔵馬:(ボウズって。。)いえ、鍛冶屋のご用とは、少し違うんですが……。
鍛冶屋:え。違うんか?……ううむ。剣術なら教えられんぞ?よく間違えて訪ねてくるヤツが居るんだが。
蔵馬:ええと、それでもなくて。
鍛冶屋:?
蔵馬:えー、本日お邪魔いたしましたのは、もしお時間がございましたら、鍛冶屋サンご本人の身の上ばなしや、仕事に対する信条など、色々と伺って参考にさせていただければ──などという若者の興味におつき合いいただきたくうんちゃら。(というはなしをしたところで果たして通じるのだろうか?)
鍛冶屋:……おまえさん。
蔵馬:はい?
鍛冶屋:おかしな着物だね……?
蔵馬:……え。
鍛冶屋:それに、何だか異国の匂いというか、あまりいいたくはないが、その、僅かに『人間臭』というか……。
蔵馬:ああ〜、オレ、実は人間で──
鍛冶屋:ひっ。た、助けてくれっ!!
蔵馬:え??

 説明しよう。鍛冶屋が生きていた時代、一般庶民(妖怪)の間では、人間は世にも恐ろしい生き物として、数多の伝説伝承と共に広く深く浸透していたのであった。故に──

鍛冶屋:命だけは助けてくれっ!!
蔵馬:……。(この時代の人間のイメージって。。。)
鍛冶屋:金はないが、命だけは助けてくれっ!!
蔵馬:はあ……。(よく考えると一方的な主張ですね、うん。) ※模範解答:金なら遣る、命だけは助けてくれ。
鍛冶屋:金はなーいっ!←しつこい
蔵馬:……分かってます。。。ご安心ください。オレはあなたの命には興味ありません。先程も申しましたが、オレはあなたの……。
鍛冶屋:命に興味がないだと……?と、ということは、まさかカラダかっ!?
蔵馬:(え?)
鍛冶屋:……。
蔵馬:……。
鍛冶屋:カラダだけは勘弁してくれっ!!!
蔵馬:オレにだって選ぶ権利はあります……。

 小休憩(ハーブティを飲ませたよ。)

蔵馬:少しは落ち着きましたか?
鍛冶屋:何だよ、妖狐タンのオトモダチなら、初めからそういえばいいだろズズズ。←お茶を飲んでいる
蔵馬:すみません。(と、オレには非がないことは明らかだが、反論すると面倒だから素直に謝っておくことにしよう。)
鍛冶屋:人間風情が、わざわざこんな田舎まで、鍛冶屋のオジサンなんぞを訪ねてくるたぁ、ご苦労なこった。
蔵馬:怒ってますか……?
鍛冶屋:怒っちゃいねえよ。
蔵馬:(怒っているようにしかみえないが。。。)本当にすみませんでした。まさかあんなに取り乱すとは思わなかったものですから。
鍛冶屋:で。何をはなせばいいんだ?オレのはなしがききたいとか、仕事に対してどうとか、そんなことをいっていた気がするが。社会科見学か何かか?
蔵馬:……。←小屋の中をみ回している
鍛冶屋:ん?どうかしたか?
蔵馬:……懐かしい匂いがします。
鍛冶屋:は??
蔵馬:あ。いえ。(気を取り直して、)今の時代、景気はどうですか?
鍛冶屋:景気か。まー、よくはないな。(何だ、さっきの態度は……。)
蔵馬:刀剣、沢山作っていらっしゃるようですね。
鍛冶屋:刀のほうは、趣味みたいなモンだ。作ったところで、大して売れやしねえからな。
蔵馬:(え!)
鍛冶屋:は?何だよ、驚いた顔しやがって。
蔵馬:あ。いえ。。。
鍛冶屋:刀はなあ……。俺自身が刀鍛冶から修行を始めたモンだから、腕を鈍らせないために、作り続けてはいるんだが。まあ、コイツらを買ってくれるのは一部の客だけでね……。主力商品は、ほら、あっちに並んでる包丁とか農耕器具とか。最近は修理のほうも増えてきたね。どちらにしても、新しいモンはなかなか売れんよ。
蔵馬:そ、そうなんですか。(ほとんど刀剣しか買ったことなかったから、そっちが主力なんだと思っていた。)
鍛冶屋:意外そうにするなよ。ま。悪いことじゃないと、オジサンは思うぞ?刀は人殺しの道具。売れないほうが、生きてるモンにとっちゃ「いい時代」なんだ──ってな。
蔵馬:……。
鍛冶屋:それに、修理ってのも、なかなかいいもんだ。物は大事にされることに越したこたぁねえよ。
蔵馬:あなたは……。いいヒトですね。
鍛冶屋:は……?
蔵馬:あ。すみません。続けます。
鍛冶屋:???
蔵馬:鍛冶屋サンの小屋に、ご近所からよく遊びに来るヒトがいるそうですけど。(って何をきいてるんだ、オレ。。)
鍛冶屋:ああ、山の中腹に住んでる妖狐タンか、おまえさんのオトモダチの。
蔵馬:(妖狐タンって。。。そんな風に呼ばれたことないんですけど。)
鍛冶屋:よう遊びに来るぜ。何が楽しいのか知らんが。……あ、そういや、今日はみてねえな。どこかで仕事でもしてんのか。
蔵馬:(ああ、二つ隣の部屋でわらびもち食ってたよ……。)
鍛冶屋:あのコはなあ……。悪いコじゃねえんだけどな。いや、盗賊だから悪いコといえば悪いコか。
蔵馬:……。
鍛冶屋:……満たされねえんだろうな。いつもそんな顔している。
蔵馬:……なぜ、そう思うんですか?
鍛冶屋:あのコ、本当に、やりたくて盗賊やってんのかね?
蔵馬:え……。
鍛冶屋:闘いの中に身を置いていれば自然と強くなれるし、古きよき時代の物は手に入るし、結果として金にもなるし、いいこと尽くめだ──ってはなしは人伝てにきいたことはあるんだが。それにしては、楽しそうじゃないんだな。
蔵馬:……。
鍛冶屋:何ていうかなー……。『生きていく』──ってことがどういうことなのか、みえなくなってるんじゃねえかな。生きることは簡単だが、『生きていく』ことは難しい……なんてな。ま、確かに、強くなけりゃあい生きていけないし、金もなけりゃあ生きていけない。だが、アイツが本当に欲しがっているのは、そんなモンなのかね?
蔵馬:……。
鍛冶屋:……俺は分かってるぜ、アイツが本当に欲しい物。オトナだからわざわざ口にしたりはしねえが。俺は──いうなればソイツの代役みたいなモンだな。だから、今は多少邪魔でも、無理矢理つまみ出したりはしないことにしている。……あ、煙草吸っていいか?そろそろ辛くなってきた。
蔵馬:……。
鍛冶屋:オイ、きいてるか?
蔵馬:帰ります。
鍛冶屋:あ?
蔵馬:(晴れやかな笑顔で、)帰ります。
鍛冶屋:あ、そうか……。まだ、故郷(くに)のはなしとか、家族のはなしもしてないんだがなぁ。

 では、隣室に移動してください。

蔵馬:ありがとうございました。あなたとはなせてよかった──

続く ...

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